政府は6月に策定した成長戦略に「IPOの価格設定プロセスの見直し」を明記した。この「見直し」を巡り、具体的な動きが出始めている。

 公正取引委員会は8月11日までに、直近に日本でIPO(新規株式公開)した約100社に調査票を送付した。証券会社と企業の間で事前に設定されるIPO時の株価、いわゆる公開価格の決め方や、期待通りの資金調達ができたかどうかについて、回答を求めている。上場手続きを担う証券会社に対してもヒアリングを実施する予定だ。

 公取が調査票を送付した背景にあるのは「公開価格が適正価格(フェアバリュー)から引き下げられている『IPOディスカウント』が存在するのではないか」という問題意識だ。

2020年に新規上場した企業では、株式の初値が公開価格よりもかなり高くなるケースが目立った。IPO企業の実力が正当に評価されていないのではないかと疑問視する声がある(写真:アフロ)
2020年に新規上場した企業では、株式の初値が公開価格よりもかなり高くなるケースが目立った。IPO企業の実力が正当に評価されていないのではないかと疑問視する声がある(写真:アフロ)

 投資情報サービスを提供している「東京IPO」によれば、公開価格に対する初値の上昇率である「初値騰落率」は2020年、平均で129.9%だった。100%超とは、初値が公開価格の倍以上になっていることを意味する。欧米先進諸国は10~20%台がほとんどなので、非常に高い数値だ。

 IPO企業は、公開価格を基に計算された額しか資金調達できないので、上場後の初値がいくら高騰してもその恩恵を受けられない。上場直後に大きく上がる株価を見て「本来の実力よりもはるかにディスカウントされた価格で売り出されてしまった」「もっと多くの資金を調達できたのではないか」と捉えてしまう。

投資家に売れやすい価格に設定?

 値決めまでのプロセスを主導する証券会社が、企業よりも優越的な立場であることを利用し、投資家に売れやすい、初値上昇で儲(もう)けやすい価格設定にしているのではないか――。IPO企業がこう考えてしまうのも無理はないだろう。

 確かに一部の証券会社にとって、短期間で大きく価格上昇しやすいIPO銘柄は、優良顧客を儲けさせたり、囲い込みにつなげたりする際の有力なツールとなっている。個人投資家の内田衛氏は「大手証券会社は積極的な売買を通じて多額の手数料を落としてくれる顧客に手厚くIPO銘柄を割り当てる傾向が見られる」と話す。

 一方、「悪者扱い」された証券会社からは困惑や戸惑いの声が上がる。

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