(写真=PIXTA)
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 「人への投資を通じた成長と分配の好循環を教育、人材育成でも実現することは、新しい資本主義の実現に向けて喫緊の課題だ」。5月10日に開催された政府の「教育未来創造会議」第3回会議の席上で、岸田文雄首相はこう語った。同会議は現代社会に即した国の教育政策のあり方について検討するために、2021年12月に創設された。この日はこれまでの議論を踏まえた第1次提言が取りまとめられたが、その中で「奨学金制度の拡充」が目玉政策として挙げられている。

 背景にあるのが、親の所得が子どもの教育環境に影響を与え、学力や学歴といった教育成果に差が付いてしまっている現状だ。例えば文部科学省は21年8月に、同省が公立小学校で実施している「全国学力・学習状況調査」における子どもの正答率と親の年収の関連性に関する調査結果を発表している。調査は全国5政令指定都市の公立小学校100校の6年生およびその保護者を対象に行われたが、国語と算数の正答率は、世帯年収の高い子どもほど、おおむね高いことが明らかとなった。

 ほかにも、東京大学に進学する学生のうち、親の年収が950万円以上である人が約6割を占めるなど、「所得格差は教育格差」と捉えられるデータが近年、相次いで公表されている。「分厚い中間層の復活」を政策の柱に掲げる岸田政権としては、格差の再生産を避ける意味においても教育機会は平等であるべきだと考えたのだろう。

 日本の奨学金事業の約9割を担う文科省管轄の日本学生支援機構(旧日本育英会)のデータによれば、足元で奨学金を利用している学生は約140万人いる。不景気で親の年収が低下したり、国立、私立問わず学費が高騰したりした結果、今や大学や短大、専門学校などで学ぶ学生の3人に1人が返済義務のある貸与型の奨学金を利用する状況だ。

 何らかの理由で奨学金返済が難しくなった「返済困難者」と呼ばれる人も増えている。日本学生支援機構は年収325万円以下の返済者に対し、毎月の返済額を一定期間だけ2分の1ないしは3分の1に減らす「減額返還制度」を用意しているが、同制度の利用者数はコロナ禍前より増加傾向にある。背景には、非正規雇用の増加や若年層の平均給与の伸び悩みといった日本の労働市場の問題が関連している。

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