過去の大型M&A(合併・買収)では苦い経験をしてきたパナソニック。うまくいかなかった理由の1つは、買収する側ならではの「上から目線」だ。過去の教訓を生かし、今回買収した米ブルーヨンダーに対しては、自主性を尊重することを重視する。(敬称略)

(上から読む「米社買収 『これで成長できなければパナソニックはもう駄目だ』)

 「パナソニックと一緒になることで、顧客により充実した提案ができるようになるでしょう」

 パナソニックが、約71億ドル(約7700億円)で米ブルーヨンダーの買収を完了した4日後の9月21日朝。同社CEO(最高経営責任者)のギリッシュ・リッシは米アリゾナ州の本社からオンラインで、パナソニックの幹部らに呼びかけた。

 ブルーヨンダーはサプライチェーン管理に強いソフトウエア会社だ。米コカ・コーラや米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など世界に3000以上の顧客を持つ。この日は、ブルーヨンダーの社内定例会に、パナソニックコネクティッドソリューションズ(CNS)社社長の樋口泰行ら十数人が参加。約1時間かけて、買収後で初めてとなる交流会が催された。

米ブルーヨンダーCEOのギリッシュ・リッシ
米ブルーヨンダーCEOのギリッシュ・リッシ

 樋口が強調したのは、ブルーヨンダーの自主性を重んじるというメッセージだ。「独立性は担保します。私はとにかく、あなたたちから色々なことを学びたいんです」。樋口の話に、海の向こうにいる数千人の社員が耳を傾けた。ブルーヨンダーの一般社員がパナソニック幹部に質問する時間も設けられ、和気あいあいとした雰囲気で交流会は幕を閉じた。

日立、ソニーグループより欠ける攻めの姿勢

 ブルーヨンダーの買収話は2018年春に社内で持ち上がったが、買収完了までは3年以上の時間を要した。まとまらなかった原因の一つは、パナソニックのM&A(合併・買収)をめぐる負の歴史にある。

 およそ10年前、同社は三洋電機とパナソニック電工を総計約8100億円で相次ぎ完全子会社化した。両社の合計売上高は約3兆円に上っていた。当時のパナソニック経営陣は買収分の規模拡大を狙ったが、売上高は買収前と変わらなかった。

 さらにさかのぼって1991年、約7800億円を投じて米映画大手MCAを子会社化したが、4年後に8割の株式を手放すなど失敗に終わっている。コンテンツを扱う企業とハードウエアを扱う企業は、水と油のように反発し合った。パナソニックにとって、大型買収はトラウマになっていた。

 それでも今回買収に踏み切ったのは、電機業界の競争環境が急速に変化し、M&Aなしではライバルと互角に戦えない時代になったからだ。パナソニックが大型買収に二の足を踏んでいた間、日立製作所はスイスの重電大手ABBの電力システム事業(買収額7500億円)やイタリアの鉄道システム会社(同約2900億円)を買収し、着実にソフト重視のビジネスモデルへ転換してきた。ソニーグループも必要な事業に積極的に資金を投じ、21年3月期には最終利益が初めて1兆円を超えた。ライバルに比べると、攻めの姿勢が欠けていた。

 買収後初のオンライン交流会で樋口が口にしたように、CNS社幹部は折に触れて、買収相手であるブルーヨンダーを尊重する姿勢を示してきた。樋口は「上から目線だと失敗する」と繰り返し、右腕でCNS社副社長の原田秀昭も「我々のような田舎の会社が親会社だからと偉そうにしたらアウト」と身の程をわきまえる。

 過去の買収で子会社となったパナソニック電工や三洋電機出身の社員からは、「同じ製品で明らかに競争力が勝っていても、親会社の都合で淘汰されてきた」と恨み節も聞こえる。樋口らは、過去の失敗の原因が何だったかを自覚している。

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