パナソニックホールディングス(HD)が成長なき40年からの脱却を目指す中で、家電を扱う大黒柱の新パナソニックは安売りとの決別へと動いている。開発陣の「マイナーチェンジ地獄」につながっていることを反省し、業界の慣習を自ら壊す。=文中敬称略
■この連載ここまで
(1)パナソニック、思考停止の殻どう破る トップ楠見の戦略
(2)イーロン・マスクの速さに学べ パナソニック、電池100年目の脱皮

「このパナソニックの冷蔵庫は値引きできないんです」
家電量販最大手、ヤマダホールディングスのヤマダアウトレット&ホビー館野田店(千葉県野田市)。店長の萩野谷信頼は、価格をどれくらい安くできるか聞かれるたびに、それはできないのだと説明する。店頭には、最上位モデルの冷蔵庫で税込み36万6300円の「NR-F658WPX」などがずらりと並ぶ。
メーカーが価格を指定する
パナソニックが2022年4月に持ち株会社制となり、売上高3兆円を超す最大の事業会社として発足した新パナソニック(東京・港)。同社は今、全国の小売りに対し、店頭の値段をパナソニック側が決める「指定価格」での取引を増やそうとしている。
これまでパナソニックは、販売数量の実績を上げるため、小売り側の値下げ原資となる「奨励金」を出しながら、製品を無理やり押し込むことが常態化していた。
営業が小売りに対し「これだけの量を仕入れてほしい」と言えば、小売りの仕入れ担当者は「補助をもらえればやりますよ」と交渉する。奨励金の相場はメーカー出荷額の6%程度とされ、2割になる製品もある。
パナソニック社長兼CEO(最高経営責任者)の品田正弘はきっぱりと語る。「自分たちの知らないところで値崩れしていくのはおかしい」。価格を下げなくても売れると踏んだ高シェアの製品を対象に、20年から指定価格の取引を始めた。

新製品の発売後に値下げをしないわけではない。価格を決めるのが小売りではなく、パナソニックであることがポイントだ。
新スキームはどんな店でも対象になる。「対象商品を勝手に値下げする店は契約違反となるため、基本的に納品しない」と同社は説明する。22年3月期に指定価格を取り入れていたドラム式洗濯機や冷蔵庫、ドライヤー、掃除機などの売上高は白物家電全体の15%だった。100億円規模の改善効果があったもようだ。
価格改革はパナソニックの収益底上げ策の軸となる。社内カンパニーのくらしアプライアンス社は、25年3月期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を22年3月期から4割増となる1180億円にする計画だ。
メーカーが奨励金を出し、小売りの判断で値下げする。下がった価格を戻すために、メーカーが機能を加えて1年後に新製品を発売する。これが日本の家電業界の慣習だった。
だが、それを思い切って壊そうとする動きに業界の関係者たちは驚いた。なぜ、パナソニックは変わったのか──。
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