電機業界の雄、パナソニックホールディングス(HD)。営業利益は1984年度の5757億円を超えないまま、40年近くがたつ。成長できずにあえいできたが、今変化を起こそうとしている。停滞の殻を破ろうとする巨艦の現状と展望を探る。

 1回目は、社長の楠見雄規が取り組む改革を取り上げる。思考停止の殻を打ち破ろうと、幹部にも生産現場にも考え抜くことを迫る。社内の文化を変えつつ、事業ポートフォリオの見直しにも踏み込もうとしている。=文中敬称略

楠見雄規社長兼グループCEO
楠見雄規社長兼グループCEO
1989年、旧松下電器産業に入社。主に研究開発畑を歩む。家電を扱うアプライアンス社の副社長などを務め、2019年にオートモーティブ社の社長に就任。トヨタ自動車との電池の共同出資会社設立を主導した(写真:的野 弘路)

 「大型の冷蔵庫を売り続けないと、売上高が減ってしまう」

 製品をデザインする拠点のパナソニックデザイン京都(京都市)。冷蔵庫を担当する事業部のメンバーがそう言うと、執行役員の臼井重雄が質問した。「本当に、大型製品の需要があり続けると思いますか」

 国内市場で活況なのは小型製品だ。さらに、将来はフードロスの問題が大きくなり、食料を大量に持っておく冷蔵庫がどれだけ必要なのかという疑問も残る。

 さらに臼井は続けた。「消費の流れをもっと広く考えてみると、どんなビジネスが必要になるでしょうか」

 これは「車載システムズ」「ライティング」などで分かれている38の事業部を対象に進めているデザイン経営実践プロジェクトの一幕だ。

 プロジェクトは各事業部から、事業部長と選抜社員の計10人を集める。事業部長は開発や生産の計画を立てる要の存在で、役員を兼務する場合もある。

 しかし、目の前の仕事に没頭するあまり、消費者のニーズや市場の展望をじっくり考えることがおろそかになりかねない。製品などのデザインを担当してきた臼井らHDのチームが、1つの事業部につき4カ月の時間をかけて議論する。2021年11月から始めた取り組みだ。

 発案したのが、21年6月に56歳で社長に就いた楠見。臼井らと半年間にわたって2週間に1度、プロジェクトについて議論した。そして、楠見は何度もこう言った。

 「自分で考えさせろ。すぐに答えのようなことを言うなよ」

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り5175文字 / 全文6050文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「中山玲子のパナソニックウオッチ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。