新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を一変させた。収束後もすべてが元に戻るわけではなく、人、企業、国などが営みを続けるうえでの新たな「常識」となって定着しそうなものも多い。各地で芽吹いている「ニューノーマル」を追う。今回のテーマは「自給自足目指す中国ハイテク産業」。

 1月23日から4月8日まで76日間に及んだ湖北省武漢市の都市封鎖。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため世界で最も厳格な人の移動と経済活動の制限が敷かれた。スーパーなど市民生活に必要な業種を除き、原則として企業活動は制限された。だが実はその中で、当局から特別許可を与えられ「例外」として稼働を続けた企業がある。

武漢の半導体工場を視察する中国の習近平国家主席(写真=Sipa USA/amanaimages)
武漢の半導体工場を視察する中国の習近平国家主席(写真=Sipa USA/amanaimages)

 スマートフォンなどの記憶媒体として広く使われる基幹部品「NAND型フラッシュメモリー」を手掛ける、長江存儲科技(YMTC)。中国理系大学トップである清華大学系の紫光集団に属する国策半導体メーカーだ。

経済活動制限が広がる中で操業を継続

 武漢封鎖解除から5日後の4月13日、YMTCは重要な発表を行っている。128層の記憶素子を重ねた「3次元NAND型フラッシュメモリー」の開発に成功したという内容だ。2020年末から21年上半期にかけての量産開始を目指すという。

 3次元NANDは、記憶素子を高密度で積層するほどメモリー製品としての競争力が上がる。小さいスペースで大きな記憶容量を実現できるためだ。

 YMTCが発表した128層は、現在の量産レベルとしては世界最先端と言っていい。すでに韓国SKハイニックス、韓国サムスン電子が同等品の量産を始めており、米マイクロン・テクノロジーやキオクシア(旧東芝メモリ)も20年内に量産を開始する計画だ。先頭グループに対して「周回遅れ」と評されていたYMTCだが、このタイミングで追いついてきた。

 半導体受託生産(ファウンドリー)大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)も、全土で経済活動制限が広がる中で操業を継続した一社だ。同社は中国国有通信機器メーカーや中国政府系ファンドなどが出資する大手メーカー。天津や北京、上海、深圳に拠点を構える。華為技術(ファーウェイ)の半導体子会社である海思半導体(ハイシリコン)や米クアルコムなどから受託生産している。

 SMICは今年に入ってファーウェイのスマホ向け半導体「麒麟710A」の受注競争で、ファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に競り勝ったと報じられている。

悲願の半導体国産化、武漢は重要拠点の1つだった

 高度な技術力が要求される最先端の半導体は、「世界の工場」となった中国製造業の泣き所だった。米中貿易戦争の中で米国はその弱点を突こうと、通信機器世界最大手の華為技術(ファーウェイ)などを米国からの部品輸出を実質的に禁止する制裁対象リストに追加してきた。

 米企業の半導体製品などが調達できなくなれば、多くの中国IT企業は身動きが取れなくなる。実際、18年には禁輸措置対象となった中興通訊(ZTE)が経営破綻寸前に追い込まれている。

 半導体の「国産化」は中国にとっての悲願であり、その重要拠点の1つが武漢市だった。新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた挙国体制をとる中で、半導体を「特別扱い」したゆえんだ。

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