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 中国国家統計局が17日に発表した2020年1~3月の国内総生産(GDP)は物価変動を除いた実質で前年同期比6.8%減となった。四半期の成長率としては記録がある1992年以降で初めてのマイナスとなり、新型コロナウイルスの世界的流行が長期化すれば文化大革命の混乱期以来となる通年でのマイナス成長も視野に入る。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1月下旬から2月にかけて経済活動がほぼ停止したことによる深刻な影響が改めて数字として示された。中国のGDPについては信ぴょう性が取り沙汰されることもあるが、中国経済の専門家は「今回はほぼ市場が事前に予想した範囲内の数字で、影響を過小に見せようとはしなかったとの印象を受ける」とみる。

 2002年から03年にかけて発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行時、中国の四半期ごとの実質GDPはそれほど大きな影響を受けなかった。03年の実質GDPの成長率の推移を見ると、1~3月が11.1%、4~6月は9.1%、7~9月10.0%、10~12 月期 10.0%で、通年でも右肩上がりの成長を維持した。ちなみに世界保健機関(WHO)が事実上終息したと発表したのは同年7月のことだった。

 だが今回、中国経済がすぐに回復するかは予断を許さない。3つの要因があるからだ。

 1点目は、中国経済の成長がそもそも鈍化傾向にあったこと。19年の実質GDP成長率は6.1%だった。19年10〜12月が6.0%となり、国家として掲げた19年の通年目標である6.0~6.5%を達成した。ただし、「自動車市場が振るわない中で国営自動車メーカーに生産台数を増やさせたようだ」(自動車メーカー関係者)との話もあり、あの手この手でなんとかクリアしたというのが実態に近い。

 2点目は、中国の企業活動が再開してサプライチェーンが回復しても、しばらくの間は外需の落ち込みが避けられないこと。人件費上昇や米中貿易摩擦の影響で製造業が中国から脱出する流れはあったが、それでもまだ中国が「世界の工場」であるという事実は変わっていない。

 世界各地での流行が長引けば、当然のことながら輸出は引き続き大きな影響を受ける。SMBC日興証券が発行したリポートの中で、平山広太シニアエコノミストは「4~6月のGDP成長率は1~3月からは大きく上昇するものの、水準としては比較的低位にとどまると見込まざるを得ない」と指摘している。

 ただし、中国経済の構造が変化していることは、経済回復を目指す上でプラスに働く要因でもある。03年は投資・輸出が中国経済をけん引していたが、現在は国内消費が主役になっている。そのため国内消費を喚起し、そこに向けて生産をするという、内需主導型の経済回復シナリオは以前よりも軌道に乗せやすい。

上海市内の商業施設には人出が戻り始めている

 3点目は、大規模な財政出動が期待しにくい環境がそろっていることだ。リーマン・ショック後、中国は4兆元の経済対策を打ち出して世界経済の回復に貢献した。ただし、そのために財政規律がゆるんだ後遺症で、特に地方政府の財務基盤が傷んでいる。

 みずほ銀行(中国)の細川美穂子主任研究員は「通年で6%程度の成長はほぼ不可能で、中国政府はこれまでのように高めの目標数値を強引に達成するという手法はもう取らないだろう。財政出動するにしても、本当に必要な対象に絞ろうとしている姿勢が見受けられる」と指摘する。中国は20年にGDPを10年比で倍増することを目指しており、毎年の経済成長目標はそこから逆算してつくっているとみられていた。

 だが、新型コロナウイルスの流行という「やむを得ない事情」でGDP倍増の実現は遠のいている。記者会見では「2020年に貧困ゼロを達成する」という、もう1つの重要目標が強調されるようになっており、こちらを達成することで政治的メンツを保とうとする可能性が高まっている。

 財政出動の遅れには、3月5日から開催予定だった全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が延期されたまま、代替日程が発表されていないことも影響している。5月開催で調整中だとの報道もあるが、黒竜江省でロシアからの感染者流入が相次ぐなど再流行の恐れが残っており、日程が確定しづらい状況だ(関連記事)。

 こうした状況を総合すると、中国は内需を中心に経済のテコ入れを図り、貧困対策と雇用対策をリンクさせて中間層を増やしながら消費を喚起する政策をとっていくことになりそうだ。それは米中貿易摩擦によってグローバルなサプライチェーンの構築が難しくなっていることや、新型コロナウイルスの影響で人や物の移動が制限される現状とも合致する。

 経済圏のブロック化は「コロナ後」の世界で起きる可能性が高い未来の1つだ。14億人を抱える巨大な経済圏がブロック化する時、日本はそれにどう対峙するかが問われている。