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 中国の華東地域にある浙江省の3月29日までの新型コロナウイルスの累計感染確認者数は1255人で、中国の省の中で4番目に多い。感染が急拡大していた2月12日には日本政府が浙江省からの入国禁止を発表しており、現在もその措置は解かれていない。

 だが、その情報だけで浙江省における新型コロナウイルス感染症の治療結果を知ると驚くかもしれない。死亡者はわずか1人にとどまっているからだ。日本国内で3月30日正午までに確認された感染者数はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」を除き1896人、死亡者数は57人にのぼる。日本では医療崩壊が起きておらず、重症者には最高水準の治療が行われているであろうことを考えると、浙江省のデータは驚異的だ。

中国のデータは信頼できるのか

 ただし、この議論をする上では、中国が発表するデータの信頼性をどう見るかが重要になる。

 湖北省武漢市で流行が始まった2019年末から20年1月中旬ごろにかけて、中国は新型コロナウイルスの感染実態を正確に発表していなかった。だが、感染者や死亡者が増えて現実に国民が厳しい移動や外出の制限を課され、初期に警鐘を鳴らした医師が死亡するに至って国内でも不満が抑えきれなくなった。ネット上では政府に批判的な記事や書き込みがシェアされ、当局の削除が追いつかないケースも見られるようになった。中国政府は新型コロナウイルス関連の情報隠蔽について副作用の大きさをすでに学習している。国際的にも厳しい目が注がれている中で今さら、死亡者数のような隠すことが困難な情報をごまかす必要性は低いだろう。

 母数となる感染者数については単純比較が難しい。日本は検査数を拡大するのではなくクラスターを発見して重点検査し、実質的に感染拡大を抑え込む施策を取っている。

 中国では発熱などの症状があれば、最初にどの病院を受診しても例外なく新型コロナウイルスの専門外来(発熱外来)に回されて診察と検査を受ける体制をとっているため、感染が判明する人の数は多くなる。ただし感染者との濃厚接触者に検査を実施した中から判明した無症状感染者については「隔離している」との理由で、WHO(世界保健機関)の基準に反して計上していない(日本は計上している)。

 以上のような事情を踏まえる必要はあるが、浙江省が感染者急増の局面を乗り切って、新型コロナの感染による死亡を抑えることに成功しているのは間違いなさそうだ。なぜこのようなことができたのか。

 同省で重症患者を中心に受け入れてきたのが、浙江大学医学院付属第一医院である。約50日間で重症・危篤患者78人を含む104人の感染者治療にあたってきた。その中で「医療スタッフの感染」「感染患者の診断見落とし」「危篤患者死亡」を全てゼロに抑え込んだという。

 安倍晋三首相は28日、緊急会見を開き医療崩壊は「対岸の火事ではない」と訴えた。その日本の状況を考えると今、浙江大学医学院付属第一医院の成果の中で最も注目すべきは「医療スタッフの感染」をゼロにしたことだろう。医療従事者が感染すれば病院の能力は大きく損なわれ、その地域で感染爆発が起きた場合に医療インフラが耐えられる可能性が低くなる。