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(写真:ロイター/アフロ)

 「機動的な水際対策についてもちゅうちょなく断行していく。積極果敢な措置を講じることとした」。安倍晋三首相は3月5日夜、香港とマカオを含む中国および韓国からの入国を3月末まで大幅に制限する方針を表明した。両国からの入国者に対しては、宿泊施設や医療施設などに2週間の待機を要請する。これで、当面は中国や韓国からの観光や出張はほぼ成立しなくなったと言ってよく、経済に深刻な影響が及ぶことは必至だ。

 これが日中両政府の間で丁寧な意思疎通がなされた結果であることは明らかだ。2月末に中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)中国共産党政治局員が来日して茂木敏充外相と会談し、日中両政府は3月5日に習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓としての来日延期を発表した。中国は3日から4日にかけて政治経済の中心である北京市、上海市、広東省で相次ぎ日本からの渡航者への14日間の隔離措置を打ち出している。韓国政府は日本に対して「不合理で過度な措置である」と強く反発している。

 米国が中国全土を対象に渡航制限をかけたとき、中国は「親善の行動ではない」と真っ向から反発した。だが、今回の日本の措置に対しては「中国でも日本でも、自国民や外国人の健康と生命を守るために科学的、専門的で適切な措置をとっている」(中国外務省の趙立堅副報道局長)などと理解を示している。

 中国は現時点では湖北省以外の地域の新型コロナウイルスの新規感染をほぼ封じ込めていると言っていいだろう。中国当局によると、国内の新たな感染者数は200人以下の日が続いており、そのほとんどは湖北省に集中している。湖北省以外の新たな感染者は、毎日ほぼ10人以下で推移している。故郷に帰っていた出稼ぎ労働者の移動が活発化しているため予断を許さない状況ではあるが、習国家主席は「よい方向に向かっている」と自信を見せる。そのため、むしろ中国の新型コロナウイルス対策の重心は、「逆輸入」をどう防ぐかに移りつつある。

 中国としては、すでに主要都市では日本からの入国者に対して厳しい行動制限をかけることで、日本から中国への人の移動はほぼ封じ込めた状態だ。今回の日本の措置があってもそれほどの痛痒(つうよう)は感じておらず、ウイルス逆輸入防止のための追い風と捉えているぐらいだろう。

 日本政府は1月31日、中国・武漢市を含む湖北省からの入国拒否を表明し、その後、対象を浙江省にも広げていた。日本政府がそれ以外の地域に今から厳しい行動制限を設ける合理性を見いだすのは難しい。感染拡大を理由とするのであれば、イタリア北部の指定が抜け落ちているのも筋が通らない。新型コロナウイルスの潜伏期間を考慮したというなら、東南アジアや米国なども同様の措置が必要なはずだ。

 今回の日本政府の決定が疫学的根拠に裏付けられた判断だったのかは疑問が残る。事実、複数の国内メディアが、政府対策本部の専門家会議メンバーによる批判の声を伝えている。