東芝の再建を巡り、ファンドが買収へのTOB(株式公開買い付け)を実施できるかどうか正念場を迎えている。主体となるプライベートエクイティ(PE)ファンドとして優先交渉を進めるのは日本産業パートナーズ(JIP)。いま最大の焦点となっているのが、金融機関による融資の内容だ。
株式市場では米証券大手、ジェフリーズの出したリポートが「東芝の現状をシニカル(冷淡)に分析したもの」と話題になっている。11月14日付で東芝株のレーティングを従来のホールド(安定)からアンダーパフォーム(期待未達)、将来実現すると予想する「目標株価」は従来の5340円から4060円へと一気に引き下げた。
いきなり目標株価を24%も下方修正するのは異例だ。その理由として2つ注目すべき点がある。まず1点目は世界的な景気変動の波が、ハイテク業界にも襲いかかっていること。ジェフリーズは東芝が保有する半導体メモリー大手、キオクシアホールディングス株の価値を1兆5000億円と保守的に算定した。さらに東芝の本業による収益も成長鈍化を見込み、1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度「PER(株価収益率)」について15倍を妥当な水準とし、目標株価を算出した。

もう1点は、東芝を対象としたM&A(合併・買収)交渉がさらに長引くと、企業価値を損なうというリスクだ。ジェフリーズのエクイティ・アナリストであるエトゥル・ゴヤル氏らは、次のように指摘した。「東芝の買収を巡って不透明な状況が続けば、従業員の士気と会社の競争力を毀損することになると懸念している。現状の経営権・オーナーシップを巡る苦闘を考えると、今後数年にわたって収益が停滞しかねない」
ここで「TOBで東芝株の売却を狙っている株主からすると、もはや買収後の東芝の成長率は関係ないのでは」と思う読者もいるかもしれない。ところが、東芝が非上場化した後に長期で成長できないシナリオなら、そもそもTOBを実施できない。その理由を以下で見ていきたい。
TOB資金、返済するのは東芝
東芝を買収する資金は2兆円超となる見込みだ。そのうち約1兆円が出資で、残りの大半を金融機関からの融資が占める(他にはメザニンと呼ばれる資金調達がある)。銀行団は各行がどんな比率で、いくらまで、いかなる条件で貸すことが可能なのか、詰めの協議を続けている。そこで重要なのが中長期の収益力だ。
当然ながら銀行団は、「東芝の債務返済能力」を重視している。TOBのための資金はPEファンドが借り入れの交渉をする一方、最終的にその負債は東芝が抱えることになるからだ。借金をテコにして企業買収するLBO(レバレッジド・バイアウト)では、その対象企業が将来生み出すキャッシュフローによって返していく。
具体的にはPEファンドが買収のための特別目的会社(SPC)をつくり、ここが金融機関からの買収ファイナンスを活用することとなる。そして買収された企業は、このSPCの傘下に入る。ただ、この時点でSPCは役割を終えるため、SPCとこの傘下企業は合併するケースが多い。こうしてTOBのために借りた資金は、買収された企業の負債となる。
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