日立製作所の新章が始まる。経営トップ3代が10年以上かけた事業構造改革にめどがつき、22あった上場子会社はついにゼロになる。次なる舞台は、DX(デジタルトランスフォーメーション)市場。約1兆円で買収した米社とともに、仏シュナイダーエレクトリックや米アクセンチュアなどライバルに挑む。
連載1回目は、買収したグローバルロジックが、ITソリューションで成長しようとする日立において変革の先導役となり、世界で戦う起点になることを描く。
■連載予定 ※内容は変更する場合があります
(1)日立の大変革を先導 米グローバルロジックの実力(今回)
(2)脱「日立時間」へ 買収企業からアジャイル文化吸収
(3)デジタル人材10万人計画 日立が資格・研修総動員
(4)沈む巨艦に大なた 日立歴代トップが構造改革できた理由
(5)日立の東原会長「サイロを壊し、黒船を呼び込んだ」描いた改革戦略
(6)日立は世界で勝てるか DX、敵はシュナイダーやアクセンチュア
(7)日立の小島社長「GAFAのように俊敏でないと負ける」
(8)日立がグローバルリーダーになるには「多様性が不可欠」伊出身常務
米国東海岸にあるマクドナルドの店舗。来店客が向かうのはレジでなく、縦長のタッチスクリーンがあるエリアだ。「パティはビーフで、チーズはあり。ピクルスはなしでオニオンはあり……」。画面に沿ってメニューを選ぶ。
自分好みのハンバーガーを注文でき、嫌いなピクルスを抜いてもらうのにわざわざ店員に説明する必要はない。ストレスなく自分だけのハンバーガーをカスタマイズできる。

これは米マクドナルドが2018年から導入しているセルフオーダーシステムだ。開発したのは、IT(情報技術)企業のグローバルロジック。日立製作所が21年7月、約1兆円で買収した企業だ。
グローバルロジックのスニール・シンCTO(最高技術責任者)は「マクドナルド側の業務効率化だけでなく、個々の消費者に最適なメニューを提供するパーソナライズ化の要素を加えた」と話す。
顧客にグーグルやオラクル
IDとパスワードを登録すれば、2回目以降の注文時に、以前カスタマイズしたメニューを薦めてくれる。画面のメニューは写真付きで、子供でも操作は簡単。システム導入によってレジ前の行列を見かける回数は減少し、待ち時間も大幅に短縮した。顧客満足度は上昇し、9割超の客が利用しているという。
グローバルロジックは00年の創業で、米グーグルや米オラクル、韓国のサムスン電子など世界有数の企業を顧客に持つ。22年3月期の売上高は12億8000万ドル(現在の為替レートで約1770億円)で、前の期に比べ38%伸びた。
取引を広げられている原動力の一つはビジネスモデルにある。経営者の悩みを聞き出し、アイデア出しからソフトウエアの開発まで幅広く手掛けており、現在ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の波にうまく乗っている。冒頭のシステムも、マクドナルドからの相談をきっかけに開発が始まったという。
1兆円は高すぎる──。買収金額が明らかになったとき、市場関係者からそんな声が聞こえてきた。通常のM&A(合併・買収)の相場からすれば高いかもしれない。だが、日立は意に介さない。
小島啓二社長兼CEO(最高経営責任者)は「1兆円をかけて買収した最大の意味は、グローバルロジックのリクルート能力にある」と話す。「リクルートマシン」とも表現する。
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