2つ目のハードルは、東芝社内の反発だ。同社は原子力や防衛関連のような公共に関わる事業において、どんどん利幅を拡大するわけにはいかない。デバイス関連の事業では、市況に左右されるリスクがある。ファンドが高い価格で東芝を買い、無理にリターンを出すために事業を切り売りすることにならないか――。東芝の経営陣は、このシナリオだけは避けようと動いてきた。「むちゃな買収額なので将来の会社の危険性が高い」と判断すれば社内で抵抗する人が増え、その提案は選ばれにくくなる。会社再編案は社外取締役で構成する特別委員会で審議しているが、企業価値を損なう蓋然性が高ければさすがに執行役も黙ってはいない。

 高値のTOBには、ハードルがもう1つある。東芝は外為法に基づき、経済安全保障上のコア業種に含まれている。このため外資のみでは買収が困難で、かといって日本の民間ファンドのみでも巨額ディールを手がける資金力に難があることだ。

投じるのは国のお金

 そこで官民ファンドである産業革新投資機構(JIC)の参画が鍵となる。ただ、株価が高くなるほどJICは手を出しにくくなる。民間ファンドと違って政策目的を重視した投資とはいえ、投じるのは国のお金だ。初めから高値づかみで、数年後の投資回収が困難になる事態は避けねばならない。国会などで価格の妥当性を追及される可能性もあり、「法外なプレミアムは乗せられない」(政府関係者)。

2022年3月の臨時株主総会では東芝の迷走について厳しい意見が飛んだ(写真:共同通信)
2022年3月の臨時株主総会では東芝の迷走について厳しい意見が飛んだ(写真:共同通信)

 確かに株主にとっては、自身の株式取得価格よりもTOB価格が高いほど利ざやは稼げる。しかし、あまりに高い提案額だと会社側からも、連合を組まなければならない他のファンド勢からも敬遠されるというリスクがある。

 複数の関係者から「このままだと買収案が破談になるか、現在の株価より低いディスカウントTOBになる可能性すらある」との声も聞こえる。そうした懸念が目に入らないかのように、株式市場は過熱している。

この記事はシリーズ「日の丸電機サバイバル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。