東芝の株価が急騰した。一部報道で、海外ファンドが東芝買収に1株当たり7000円以上の価格を付ける考えであることが伝えられたためだ。すでに高い水準にある6月22日の終値を3割上回る。金融界からは、あまりに高い価格で実現性は低いとの声が多く聞かれる。

 日本時間の6月22日夜、ロイター通信で香港を拠点とするチームが東芝について「非公開化を提案しているファンドのうち、少なくとも1社が最大1株7000円で買収を検討している」と報じた。東芝は会社再編に向けて、ファンドからの買収提案などを募集してきた。5月末の第1次段階で10社からの提案があり、そのうち1案の価格情報が流れた。

東芝は6月28日に株主総会を開き、株主から新たな経営陣の承認を得る(写真:Shutterstock)
東芝は6月28日に株主総会を開き、株主から新たな経営陣の承認を得る(写真:Shutterstock)

 日本時間6月22日深夜~23日早朝の米国株式市場では、東芝株(米預託証券=ADR)が一時6200円程度まで上昇した。ただ、市場で推測されている複数大手ファンドの買収提案に比べて価格の乖離(かいり)が大きいことから、本当に資金繰りのめどがつくのか冷静な見方も浮上。23日の東京株式市場では朝方に5800円台を付けた後でおおむね5700円台の推移となり、終値は前日比195円(3.5%)高の5696円だった。

 複数の関係者によると「海外ファンド1社だけ7000円の提案があった」というのは事実。だが金融界では「インフラ事業が主力の東芝は短期に大もうけできる銘柄ではなく、この価格は将来の予想キャッシュフローから算出した企業価値と大きくずれている」などの理由から、実現性が低いとの声が上がっている。「10件のうち最も実現性が低いとみられる提案の価格だけ、なぜ流れたのか」といぶかる声もあった。

 東芝の社内も混乱している。一般投資家から株価上昇への期待だけが膨らむと、各ファンドにとっては企業価値をそれ以上にどう上げていくのかが難しくなり、結果として東芝とファンドとの再編協議に支障をきたすからだ。

高値TOB、3つのハードル

 東芝の株価がつり上がると、買収成立が困難となる3つのハードルがある。東芝株は2021年3月まで、3800円前後で推移していた。同年4月、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが初期段階の買収提案をすると、TOB(株式公開買い付け)への期待から4900円前後に上昇した。

 結局CVCは同時点でいったん手を引いたが、いずれ東芝を買収するファンドが現れるのではと、市場からの期待は続いた。このため22年4月上旬まで、株価はほぼ4900~5000円前後を上値としたボックス圏での展開だった。

 このため「本来の市場評価は3800円程度がベース」「5000円台前半でも実力に対して相当なプレミアムが付いている」(複数の外資系金融関係者)との見方が多い。

 ファンドは投資案件に対し、内部収益率(IRR)で20~25%程度といわれるリターンを達成しなければならない。買収価格が上昇するほど、そのハードルも上がっていく。1年前のCVCは5000円台での買収提案だったといわれ、今回も複数の大手ファンドが同程度の水準とみられている。このため、株価があまりに上がると多くのファンドにとって手を出しづらくなるのが1つ目のハードルだ。東芝は価格だけでファンドを選ぶわけではないので、最高値の提案が自動的に成立するわけではない。一方、その情報に基づいて上昇した株価は他のファンドの動向にも影響しかねない。

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