東芝は6月28日に定時株主総会を開く。会社側が議案として出した取締役選任案で、米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントなど物言う株主(アクティビスト)からの2人を含むことに現在の社外取締役や有識者、一般社員からも異論が出ている。ガバナンス(企業統治)問題に詳しい、中村直人弁護士に論点を聞いた。
![プロフィール:中村直人[なかむら・なおと]氏](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00112/062100084/p1.jpg?__scale=w:500,h:335&_sh=0910aa0e01)
コーポレートガバナンス・コードの改訂により、東証プライム市場の上場企業では独立社外取締役が3分の1以上を占めるよう求められています。取締役会の構成がこれを満たせば、ガバナンスは向上するのでしょうか。
中村直人弁護士(以下、中村氏):かつての社外取締役が1人のみという時代からは一歩前進といえます。取締役会の中で社外取締役が1人の場合、質問をしたとしても傍観者になりがちでした。その人数が増えて3分の1以上となると存在感が拡大し、だんだんと物事を決める主体になってきます。
私は「はないちもんめ型」と呼んでいますが、社内取締役と同じくらいの数になると、どちらも真剣に議論するようになります。ガバナンスは世界の目、特に欧米の状況を意識して制度を整えてきた面が大きく、取締役に女性がいなくて社外の人間も1人のみだった昔は世界で最も時代遅れといえる状況でした。このため、まず数にこだわる気持ちは分かります。ただ、最近は社外取締役が会社の成長に役立っているのか、厳しい目も向けられるようになってきました。
社外取締役による統治の失敗例
東芝は現時点で8人の取締役のうち、75%に相当する6人が社外取締役となっていますが、混乱を収拾できていません。
中村氏:残念ながら東芝は(社外取締役による統治について)一番失敗してしまったケースです。社外取締役というのは、横のつながりのない人がほとんどです。社内の取締役は相互の関係性がある一方、社外取締役はこちらが弁護士、そちらは公認会計士、さらに別の企業出身などと立ち位置が分かれています。そこで求心力のある人がいなければ、社外取締役の人数が増えるにつれて各者の方向性が分散してしまいがちという課題が現れてきます。
この会社をいかに成長させるべきかという当事者意識や、軌道修正せねばならないといった強い使命を感じられない人が社外取締役に就いてしまうのも問題です。東芝の状況は実際に、取締役会の内部がバラバラになっているように見受けられます。
社外取締役の人数を増やしたとき、重要なのは社内の社長やCEO(最高経営責任者)など、核となる人物にきちんと人望があるかどうかです。議論のまとめ役がいなければ収拾がつきません。そうではない場合、特効薬はありません。特に東芝のように1年前には取締役会議長の再任が株主総会で否決され、法律家から見ると奇妙な調査報告書まで出てくるような状況では(社内取締役も社外取締役も)自分の立場を守ることばかり考えがちになるでしょう。
今回、東芝は物言う株主から2人を社外取締役候補としています。現在の社外取締役で名古屋高等裁判所長官だった綿引万里子氏は、他の株主では得られない内部情報に触れられるため、公平性を欠くとの懸念を示しました。
中村氏:それは当然の懸念です。もちろん株主間で情報の公平性が保たれなくなるという問題も大きいのですが、さらに重大な懸念があります。物言う株主から派遣されてくる2人は誰のために働くのかということです。(取締役が会社のために忠実に職務を行うことを求めている会社法上の)「忠実義務」の問題が生じます。
(6月28日開催の)定時株主総会の参考書類を見ると、この2人は東芝のために働くといった趣旨が一言書いてありますが、純粋に東芝の長期成長のためだけに働いてもらえるなどとは期待しようもありません。出身元のファンドの指揮命令下で働くと考えるのが自然です。
東芝の(綱川智取締役会議長が出した)ステートメントでは、この2人の選任によって「株主と経営陣はより足並みを揃(そろ)えることができる」と書いてあるのですが、それでは経営陣が特定の株主の要求を聞くということになります。つまり、内部情報が特定の株主に流れることを許容して忠実義務違反を受け入れることにつながりかねません。このようなステートメントが出ること自体、会社の情報発信がいかにいびつな状況となっているのかを表しています。
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