富士通や川崎市などは3月12日、津波回避の実証実験を実施した。世界最高性能のスーパーコンピューター「富岳」を使った津波シミュレーションを活用。AI(人工知能)で予測した情報を使い、逃げ遅れた人への注意喚起などを協力し合う「チーム戦」で効率的に避難する。先端技術を生かした社会実装に結びつけられるか。

川崎市で3月12日に開催された避難訓練には多くの人が参加した
川崎市で3月12日に開催された避難訓練には多くの人が参加した

 「途中で通行不可を想定した黄色いカードを持った人が立っていたので、『ここは通れないみたい』と地図に印を付けておいたよ」。12日に富士通と川崎市、東北大学災害科学国際研究所や東京大学地震研究所と実施した、津波シミュレーションを使ったアプリの実証実験。避難訓練のゴールの川崎市立川中島中学校へ一番に現れた参加者の鈴木英朗さん(76歳)は実験後にこう語った。

 富士通などは2021年2月に、富岳を活用した津波の浸水予測技術は発表済みだが、実証実験は今回が初となる。12日は、川崎市の一部の住人が専用アプリをダウンロードして参加した。朝8時過ぎにサイレン音と同時にアプリで振動と「ここに津波がきます!」という表示が出され実証実験はスタートした。

 冒頭、鈴木さんが話していたのは、アプリに登録したユーザー同士が、写真やコメントで危険個所などを知らせ合う機能だ。実際に地震が起きると、建物の損壊や土砂崩れが起き、直後には津波が発生しかねない。アプリの地図上に通行止めなどの場所を「三角コーン」の印で示して共有し合うことで、危険な場所を避けて効率的にゴールとなる避難所を目指せるようになる。

危険度をヒートマップとして表示

 アプリには、自分の住んでいる地域のどの辺りに、いつ、どういった大きさの津波が到達しそうかなどを危険度に応じて色でヒートマップのように表示できる。「現在、気象庁が出しているのは海岸線地点での高さに関するアラート。どの場所にどのくらい浸水するかを予測できるものはない」(富士通人工知能研究所の大石裕介主席研究員)という。

 細い道路1本単位での浸水予測が可能になったのは、富岳の処理性能によるところが大きい。従来は10メートル間隔でしか予測できなかったが、富岳では3メートル間隔での予測が可能になった。

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