2021年夏に発覚した品質不正問題が社会を揺るがし、創業以来の危機に直面した三菱電機。同年7月末に前任の杉山武史氏が引責辞任を表明し、漆間啓社長が緊急登板した。

 漆間社長にとっての最大の課題は、長年にわたって不正を見逃してきた企業風土の刷新だ。21年10月に20~50代の45人から成る社長直轄の改革部隊「チーム創生」を立ち上げ、22年4月からは複数の事業本部を束ねる「ビジネスエリアオーナー」を配置する。品質不正の要因の1つと言われた強い縦割り組織に横串を通し、部門をまたいだ人事異動を活発化させる狙いがある。

 漆間社長は3月上旬、日経ビジネスの単独インタビューで「品質への誠実さがなかった」と反省の弁を述べた。「上から変わる」ことの必要性を繰り返し唱えるが、染みついた風土を変えられるだろうか。

三菱電機の漆間啓社長は、品質担当役員に外部人材を採用することを決めた(写真:的野弘路)
三菱電機の漆間啓社長は、品質担当役員に外部人材を採用することを決めた(写真:的野弘路)

30年以上も品質不正が明らかにならなかったのはなぜなのか。社長としてどう考えるか。

三菱電機・漆間啓社長(以下、漆間氏):組織として、品質に対する誠実さがなかったのが原因だ。(検査の不正に)違和感を覚えた現場社員が上司に報告した際に、上司はきちんと対応して正さなければならなかった。しかし、過去から続けてきたといった理由で、そのままでよいと判断することがあった。

 社員の中には、本当にこの検査手法でいいのか疑問を持った人もいるだろう。一方で、その違和感を上司に伝えたらどうなるか心配になり、報告できなかった社員も多いのではないか。上司に伝えたにもかかわらず、きちんと対応してくれなかったという例もある。組織全体として品質に対する誠実さが足りなかったために、三菱電機は(不正を明らかにするという)ハードルを越えられなかった。

不正の実態を調べるため、外部の弁護士らでつくる調査委員会が社員を対象にアンケートを実施した。21年12月に公表された報告書によると、回答を「妨害」するような行為もあったという。調査委に直接送らなければならないアンケートの回答を、提出前に見せるよう求めてきた上司が複数いたことも判明した。なぜ、このようなことが起きたのか。

漆間氏:普通はアンケート結果を事前に見せるように指示することはないが、(会社が再発防止に動き出した後でも)そうしたことが分かっていなかった、ということだ。もしくは、(部下が上司に)忖度(そんたく)する気持ちがあったのかもしれない。

 21年7月に社長に就任した直後、お盆休みを使って三菱電機の改革案を真剣に考えた。そして、3つのことに考えが至った。上にものを言える風土にすること、失敗を許容すること、そして課題を共に解決することだ。これら3つを実現するには、従業員と一体になる必要がある。

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