王子ホールディングス(HD)は11月27日、バイオベンチャーのレクメド(東京都町田市、松本正社長)と、共同開発およびレクメドに出資する資本業務提携を決定したと発表した。レクメドは1998年に設立された老舗のバイオベンチャーで、希少疾患を対象とするユニークな創薬に取り組んできた。紙・パルプ業界で国内売上高第1位の王子HDがバイオベンチャーに出資する狙いは何なのか。

レクメドが日本で臨床開発を進めているポリ硫酸ペントサンナトリウム製剤の治験薬。

 結論から言うと、王子HDは事業多角化の一環として木質成分を原料とする医薬品の研究開発に乗り出しており、木質成分由来の医薬品の開発を手掛けてきた創薬ベンチャーのパートナーになることで、そのノウハウなどを獲得することを狙ったものだ。新型コロナ禍に限らなくともデジタル化の進展などで需要減少にさいなまれている紙・パルプ大手にとって、意外な多角化の道といえそうだ。

実は数多い木材から有効成分を抽出した医薬品

 医療用医薬品には木材から有効成分を抽出したものが実は多くある。抗がん剤のイリノテカンはカンレンボクという中国原産の樹木から抽出した成分を、やはり抗がん剤のパクリタキセルは針葉樹のイチイの樹皮から抽出した成分を元に作られていることが知られている。漢方薬まで含めると、植物由来の医薬品有効成分は枚挙にいとまがないといっていいだろう。

 こうしたことから王子HDのイノベーション推進本部では、数年前から木質成分に基づく医薬品の研究開発に着手。2020年4月には資本金1000万円を投じて100%子会社の王子ファーマを設立し、本格的な事業化に乗り出した。

 王子ファーマが着目したのは、木質由来のヘミセルロースを精製、硫酸化した、硫酸化ヘミセルロースを医薬品にすることだ。材木の成分は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3種類あり、紙・パルプの原料として使われるのはセルロースだ。王子HDでは、副産物であるヘミセルロースの有効利用を目指して研究開発を行い、これまでにヘミセルロースを加水分解した成分を化粧品向けに供給している。

 一方で、ヘミセルロースを処理して作った医薬品は、これまでにも存在している。ドイツでは、ヨーロッパブナという樹木から抽出した成分に基づく医薬品が、血栓症の治療薬として50年以上前から使われてきた。ヘミセルロースを精製して硫酸化したポリ硫酸ペントサンナトリウム(以下、ペントサン)と呼ばれているのがその成分だ(硫酸化ヘミセルロースの一種だが、一定の分子量と構造のものを抽出した)。米国では1996年に間質性ぼうこう炎の適応で米食品医薬品局(FDA)の承認を受け、米ジョンソン・エンド・ジョンソンのグループが「ELMIRON」という商品名で販売している。

変形性膝関節症に対する医薬品目指す

 レクメドは、これまでに希少疾病用医薬品などの開発を手掛けてきたベンチャーで、発売にこぎ着けた製品も有している。2007年にはドイツのベーネ・ファーマケムからペントサンの日本での権利を導入し、研究開発に取り組んできた。最初に着手したのは、変形性膝関節症という比較的患者数の多い疾患だ。2008年には旭化成ファーマと提携し、2010年にはプラセボ(偽薬)と比較する臨床試験を開始したが、プラセボに比べて有効とする結果が出なかったために開発を中断。旭化成ファーマとの契約は終了した。

 ただ、レクメドは諦めなかった。ペントサンがムコ多糖症と呼ばれる遺伝性の希少疾患の症状を改善するという研究成果に基づいて研究開発を進め、国からの助成などを受けて臨床試験を実施。最終段階の臨床試験で良好な結果が得られれば、承認申請できるという段階まで開発を進めてきた。

 一方で、変形性膝関節症に対しては、ベーネから日本以外の権利を導入したオーストラリアのベンチャー企業が2018年に臨床試験で良好な結果を得たと発表した。こうしたことから、レクメドでは2021年春以降に、あらためてペントサンの変形性膝関節症に対する臨床試験を開始すると共に、ムコ多糖症に対する最終段階の臨床試験も開始するべく準備しているところだ。

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