「数年前に厚生労働省に相談に行ったときは、数百円が妥当だろうと言われた。それが万単位の保険償還価格が了承された。治療用アプリによる治療効果を適切に評価してもらえた」。治療用スマートフォンアプリを開発するベンチャー、CureApp(キュア・アップ、東京・中央)の佐竹晃太社長は2020年11月11日に開いた会見で、安堵の表情でこう語った。

保険償還価格は2万5400円

 佐竹社長は2014年にCureAppを設立し、治療用アプリの事業化に取り組んできた。まず着⼿したのがニコチン依存症治療⽤のアプリの開発だ。慶応大学医学部呼吸器内科教室と共同で開発し、臨床試験で治療用アプリを利用することの有効性を実証するデータを取得して、2019年5月に日本初の治療用アプリとして承認申請。2020年8月に医療機器としての製造販売承認を取得し、保険診療の中で使えるよう、保険適用の希望を出していた。

CureAppのニコチン依存症治療用アプリ
CureAppのニコチン依存症治療用アプリ

 これを受けて2020年11月11日に厚生労働省が開催した中央社会保険医療協議会で審議され、保険償還価格(健康保険から医療機関に支払われる価格)は2万5400円とすることが了承された。佐⽵社⻑のコメントは、この償還価格に対するものだ。保険収載は12月1日の予定で、アプリも12月1日の発売予定だ。

 CureAppのニコチン依存症治療用アプリは、クラウドに置かれた自動診療補助システムで、患者が禁煙外来などに受診した際に、医師がシステムにアクセスして患者の情報を入力。患者はアプリをスマホにダウンロードし、呼気中の一酸化炭素濃度(CO)を計測するIoTデバイス「COチェッカー」を受け取る。このアプリに、患者が毎日計測したCO濃度や喫煙状況、アプリからの質問への回答などを入力すると、それに応じたメッセージや動画を表示するというものだ。

(参考:治療用アプリを日本で初めて申請したキュア・アップ=現在はCureAppに社名変更)

標準禁煙治療よりも高い禁煙継続率

 現在、医療機関の禁煙外来で保険診療として行われている標準的な禁煙治療は、12週間の間に5回通院して行われる(一部はオンライン診療も可)。禁煙補助薬としては、貼り薬のニコチンパッチ、ニコチンガム、飲み薬などがあるが、保険診療の中ではニコチンパッチか「バレニクリン」という飲み薬が使われる。

 CureAppの禁煙治療用アプリは、バレニクリンを用いた禁煙治療を補助する位置付けのものだ。禁煙治療を開始する際、バレニクリンと併用してアプリを利用し始め、12週間経過後は医師がアプリを介して喫煙状況を確認する。これにより、禁煙補助薬の使用を終えた13週⽬以降も禁煙を継続させる。実際、臨床試験では従来の標準禁煙治療よりも高い禁煙継続率を示した。

 治療用アプリを用いて行動変容を促せば、様々な生活習慣病を改善できる可能性があることは多くの人が認めるところだ。だからこそ米国では2013年に米食品医薬品局(FDA)が審査のガイダンスを発表し、日本でも2014年に薬事法(現医薬品医療機器等法)が改正され、スマホなどのアプリを医療機器として認めていくことになった。

 ただ、問題は医療機器として承認されても、大きな保険点数が付くかが分からなかったことだ。

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