水産スタートアップのリージョナルフィッシュ(京都市)が「ゲノム編集マダイ」の国内流通を始める。9月17日に農林水産省と厚生労働省への食品としての届け出が受理され、クラウドファンディングを開始。支援額の目標としていた100万円を初日に上回り、30日の募集終了までに約320万円を集めた。ゲノム編集動物食品を世界で初めて実用化した手応えをリージョナルフィッシュの梅川忠典社長に聞いた。

ゲノム編集マダイが泳ぐ水槽の様子。外海に出ないよう陸上養殖施設で育てる
ゲノム編集マダイが泳ぐ水槽の様子。外海に出ないよう陸上養殖施設で育てる

 通常のマダイと比べ、身がはち切れそうなほど肉厚なマダイ。リージョナルフィッシュが「22世紀鯛」のブランドで国内に流通させるゲノム編集マダイは、魚類のゲノム編集を研究してきた京都大学の木下政人准教授と、養殖技術に詳しい近畿大学の家戸敬太郎教授の共同研究成果だ。可食部の筋肉の量を1.2倍から最大1.6倍に増やした。飼料利用効率は14%改善するという。

 ゲノム編集技術とは、生物の遺伝情報が記録されたゲノムをピンポイントで改変して品種改良する技術。何世代にもわたって時間をかけて行っていた品種改良を短期間で実現できる利点がある。

ゲノム編集マダイ(上)と通常のマダイ(下)。肉厚な様子が分かる
ゲノム編集マダイ(上)と通常のマダイ(下)。肉厚な様子が分かる

 ゲノム編集マダイには、他の生物が持つ遺伝子を導入するのではなく、その生物がもともと持っている遺伝子を働かなくする「欠失型」と呼ばれる改変が行われている。具体的には、筋肉が過剰に形成されるのを抑えるミオスタチンと呼ばれる遺伝子を働かなくすることで筋肉の量を増やした。このゲノムの変化は自然界でも起こり得るものであり、農水省、厚労省への手続きでは、食品としての安全性が従来の食品と同程度であること、生物多様性に悪影響を及ぼすものでないことなどが確認された。

 9月17日に食品としての届け出が受理されたため、リージョナルフィッシュは同日にクラウドファンディングを開始。支援額の目標である100万円をその日のうちに上回り、募集を締め切った30日までに320万円を集めた。返礼品として用意した190食分のゲノム編集マダイは完売となった。

約3000尾のゲノム編集マダイを飼育中

 リージョナルフィッシュは現在、京都府宮津市などにある陸上養殖設備を用いて、3000尾程度のゲノム編集マダイを完全養殖で飼育している。今回流通させる190食分は40~50尾に相当し、あくまでもテスト販売の位置付けだ。クラウドファンディングで支援を求めた金額も、マダイ200gを含む「鯛めしセット」が1万円、320gを含む「鯛しゃぶセット」が1万5000円などと、かなり高めの設定だった。本格的な販売については未定だが、技術などの詳細な説明をしながら販売するため、今後もインターネット販売が中心になる見通しという。

 リージョナルフィッシュはゲノム編集マダイの実用化を目指して2019年に設立されたスタートアップ。梅川忠典社長は京都大学出身で、コンサルティング会社や投資ファンドに勤務した後、リージョナルフィッシュの起業に参画した。

 その梅川社長は「ワイルドハント(天然物の漁獲)が中心の日本の水産業にゲノム編集技術やスマート養殖の技術を持ち込めば、成長産業に変えられる。ゲノム編集技術の農産物への利用は海外が進んでいるが、水産分野なら十分に勝機があり、日本経済に貢献できると考えた」と話す。世界初のゲノム編集動物食品の流通開始を目前に控える梅川社長に手応えや今後の事業展開を聞いた。

続きを読む 2/3 「まずは技術についてしっかり説明」

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