COPMAN法の試薬キット
COPMAN法の試薬キット

 塩野義製薬とAdvanSentinel(大阪市、古賀正敏社長)は2022年10月6日、北海道大学大学院工学研究院の北島正章准教授と共同で、下水中の新型コロナウイルスを高感度で検出する新技術である「COPMAN法」を開発したと発表した。AdvanSentinelは下水疫学調査サービスを事業化するために、22年1月に塩野義と島津製作所が50%ずつを出資して設立した企業だ。新技術の開発で、事業展開に弾みがつくだろうか。

 「天気予報で花粉の飛散情報が伝えられているように、感染症の流行も天気予報のように伝えたい」。塩野義が下水疫学調査サービスの事業化に取り組んだきっかけは、現在、AdvanSentinelの研究開発部で部長を務める岩本遼氏が、「やりたいねん!」という名称の新規事業の社内公募に応募したことだった。岩本氏は当時、デジタルインテリジェンス部に所属して塩野義のデジタルトランスフォーメーションに関わっていた。公募で採択されたのは新型コロナ感染症が始まる少し前の19年7月で、思い描いていたのは薬剤耐性の微生物(AMR)について広域の流行予測を行うことだった。

 下水疫学調査とは、下水処理場などで下水を採取し、感染症の原因となる微生物の有無から流行状況を把握する手法だ。例えばある県の全ての下水処理場で週1回、調査を行えば、県全体での感染症の流行状況を把握できるだろう。医療施設や介護施設の下水排出口から定期的に排水を採取して調査を続ければ、院内感染の発生を「超早期」に検出して対策を取れる可能性もある。新型コロナウイルスのように、感染しても無症状の人が多い感染症でも、病原微生物のまん延状況を把握できる方法として期待されている。

AdvanSentinelの岩本遼氏(左)と今井雅之副社長
AdvanSentinelの岩本遼氏(左)と今井雅之副社長

 目的の病原微生物がふん便中に排出されやすいか否かなどによって検出の難易度が異なるが、古くから疫学調査の有効な方法と考えられてきた。19年当時、既に世界保健機関(WHO)がグローバルレベルでAMRの下水疫学調査を行い、論文などで発表していた。日本でも以前から、国立感染症研究所が下水を用いてポリオウイルスなどの疫学調査を行っていた。

 ただし岩本氏は事業化を提案した時点で、「これをビジネスチャンスにするには、CSR(企業による社会貢献)のような形ではなく、誰が受益者となるかを明確にしてサステナブル(持続可能)なビジネスモデルを考えることが重要だ」と考えていた。そうやって、技術開発とビジネスモデルの確立という2つの課題に取り組み始めた直後に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生した。これを受けて岩本氏らの取り組みは、新型コロナウイルスをモニタリングする方向に大きくかじを切ることになった。

 それまで下水を利用して流行状況を把握できることが報告されていたAMRやポリオウイルスなどは、いずれも主に消化管で増殖し、ふん便中に排出される細菌、ウイルスだ。対して新型コロナウイルスは主に上気道で増殖する。ふん便中に排出されることが報告され、海外でも下水を利用したモニタリングが検討され始めていたが、AMRなどに比べれば下水中のウイルス量は多くはない。しかも当時の日本は海外に比べて感染者数は極めて少なかった。感染がコントロールされた状況でも検出可能にするには、高感度でウイルスを検出する手法の開発が必要だった。

 そこで塩野義は20年10月に北海道大学大学院工学研究院環境創生工学部門の北島正章准教授(当時は助教)と共同研究契約を結び、新型コロナウイルスを高い感度で検出する手法の開発に取り掛かった。この共同研究の成果が、今回発表されたCOPMAN法だ。

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