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 10月5日に発表されたノーベル生理学・医学賞には、C型肝炎ウイルス(HCV)の発見に貢献した研究者3人が選ばれた。米ニューヨーク出身で現在、米国立衛生研究所(NIH)に所属するハーベイ・オルター氏、英国出身でカナダのアルバータ大学に所属しているマイケル・ホートン氏、米カリフォルニア州の出身で現在米ロックフェラー大学に所属しているチャールズ・ライス氏の3人だ。

左から、アルター氏、ホートン氏、ライス氏(イラスト提供:ノーベル財団)

 HCVは血液を介して感染し、慢性肝炎を引き起こして肝硬変や肝がんの発症につながる。世界保健機関(WHO)は、今なお世界で7000万人がHCVに感染し、年間約40万人が死亡しているとする。しかしながら、受賞者に選ばれた3人の研究を皮切りにして検査法や治療薬が開発され、感染者の95%以上を治療できる薬も登場している。

 WHOが、「2030年までに新たなウイルス性肝炎感染を90%削減する」という目標を掲げているが、実際、ウイルス性肝炎に対する医療は平成の30年の間に飛躍的に進展した。その突破口を開いた3人が受賞者に選ばれたわけだ。

「非A非B肝炎」と呼ばれていた

 ウイルス性肝炎の原因となるウイルスには、主に⽔や食べ物を介して感染するA型肝炎ウイルス(HAV)と、血液を介して感染するB型肝炎ウイルス(HBV)、そしてHCVがある。輸⾎などの後に肝炎になることは早い時期から認識されていた。1967年に米国の研究者らがHBVを発見し、血液中のウイルスを検出する検査を開発。さらにその後、HBVワクチンを開発して、1976年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

 だが、輸⾎後肝炎の原因はHBVだけではなかった。今回のノーベル賞受賞者に選ばれた1人であるオルター氏は、1970年代に輸血後肝炎の研究を行い、多くの輸血後肝炎がHAV、HBVという既知のウイルスでは説明できないことを明らかにした。

 さらに、患者血漿(けっしょう)をチンパンジーに移植すると肝炎を発症したことから、感染性物質の存在が示唆されたものの、原因を特定することはできず、A型でもB型でもない肝炎として、「非A非B肝炎」と呼ばれるようになった。

 非A非B肝炎の原因を突き止めたのが、今回のノーベル賞受賞者に選ばれたホートン氏だ。英国出身のホートン氏は1982年に米国に渡り、設立間もないバイオベンチャーのカイロンに参画。そこから非A非B肝炎の研究を重ね、1989年に原因となるウイルスの遺伝子を見つけたことを発表。そのウイルスを「HCV」と名付けた。これにより、血液中のHCVを検出する検査法が開発され、HCVに感染した血液を輸血に用いないようになった結果、輸血後肝炎は徐々に減っていった。

ウイルス増殖の仕組みを解明

 ただ、これでHCVの問題が解決したわけではなかった。HCVは一度感染すると、急速に悪化することは少なく、持続的に感染して長い時間をかけて肝硬変や肝がんを発症させる。発症していないHCVの持続感染者は「キャリア」と呼ばれ、日本には150万人から200万人いるとされている。HCVがなぜ持続感染するのか。その克服策を探るためにも、HCVが感染し、増殖する仕組みを研究することが不可欠だった。