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 8月7日に三菱ケミカルホールディングス(HD)の越智仁社長がオンラインで記者懇談会を開催した。話題は化学品の市況から、米中関係、デジタル化の取り組み、働き方改革、長期ビジョンまで広範に及んだが、ここではヘルスケア事業の話題を取り上げる。

田辺三菱製薬はグローバルで戦っていけるのか

 「将来の収益源の1つと位置付けているヘルスケア事業の中核である田辺三菱製薬のグローバルの競争力をどう考えているか」

 「強みとするモダリティ(治療技術)を確立できているわけではない。グループの総合力を生かせた方がいいというのは理解できるが、年間2000億円の研究開発費を投じる第一三共ですらアストラゼネカと提携しなければ十分な開発力を確保できないという状況で、年間の研究開発費が800億円の田辺三菱はグローバルで戦っていけると考えているか」

 このような記者からの質問に、越智社長はパソコンモニターの向こうから鋭い眼光でこちらを射抜いてきた。

三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長

 越智社長が語ったことを紹介する前に、田辺三菱製薬が目下置かれた状況を説明しておこう。田辺三菱は、三菱化学の医薬部門が東京田辺製薬をはじめとする幾つかの製薬企業をのみ込んで大きくなった三菱ウェルファーマと田辺製薬が合併して2007年10月に発足した会社だ。2020年3月期の売上収益は3798億円で売上高の規模では国内8番手の中堅製薬だ。

 2016年に始まった中期経営計画では、5年間に4000億円の研究開発費を投じて2020年度の売上高を5000億円、コア営業利益を1000億円にすることを目指してきた。だが、2018年3⽉期の売上収益4338億円、コア営業利益785億円以降、2期連続の減収減益となり、2020年3月期には、コア営業利益が190億円、営業利益が60億円の赤字に転落した。

 失速の原因は、スイスのノバルティスに技術導出した多発性硬化症治療薬「ジレニア」に関して、2019年2月にノバルティスとの間でロイヤルティー収入を巡る仲裁手続きが始まったために売上収益の認識をやめたことと、米国で開発を進めていたワクチンの開発計画を変更したことに伴い、2020年3月期に非経常項目において約240億円の減損損失を計上したことだ。

課題は海外展開に出遅れていること

 同社の最大の課題は海外展開に出遅れていることだ。2017年8月にALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬の「ラジカヴァ」を米国で発売して自社販売を開始したが、点滴で注射しなければならない製剤のため患者の負担が大きく、売り上げは大きくは伸びていない。現在、同社ではラジカヴァの経口薬について、米国で最終段階の臨床試験を行っており、その承認取得に期待を寄せている。

 海外市場に攻め込むに当たって焦点を当てたのが神経疾患と自己免疫疾患だ。神経疾患ではラジカヴァの経口薬に加えて、2017年7月に買収したイスラエルのニューロダームのパーキンソン病治療薬でも最終段階の臨床試験を行っている。自己免疫疾患は、赤芽球性プロトポルフィリン症という遺伝性の希少疾患に対する薬に関して、最終段階のグローバル試験を6月に開始した。日本では、腎臓病や糖尿病の治療薬、ワクチンなどにも力を入れている同社だが、海外市場へはニッチ領域に絞り込んで攻め込もうという戦略だ。

 ただ、同社にはもう1つ大きな課題がある。モダリティと呼ばれる治療技術の多様化に対して、自分たちの確固たる技術を確立していないことだ。