競争力が乏しいと思われがちな日本の製薬産業だが、創薬の力は欧米に負けていない。近年目立つのは生活習慣病向けのような薬よりも、希少疾患や難病に使う独自性の高い薬だ。膨大な労力と時間がかかる創薬。幾度の失敗を重ねても諦めない研究者たちの姿を追った。

 2020年5月、京都市に本社を置く日本新薬が核酸医薬と呼ばれる医薬品を発売した。筋力が低下するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)という希少遺伝性疾患を対象とする「ビルテプソ」。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の研究者らと共同開発したもので、20年以上にわたる日本新薬の取り組みが実を結んだ。

 核酸という、遺伝子を構成する物質を使う技術は、世界的に見ても革新性が高いものだ。遺伝子を構成する核酸は4種類のヌクレオチドという物質から成り、その配列によって遺伝情報が親から子、子から孫へと伝わる。

 DMD患者はジストロフィンというたんぱく質をつくる情報を持つ遺伝子に変異があり、ジストロフィンをつくれなくなって発症する。ジストロフィンは筋肉を構成するたんぱく質の一つで、DMD患者はこれがないために、筋力低下などの症状が現れる。

 ビルテプソはそんなDMD患者の遺伝子に作用し、正常な働きを持つジストロフィンをつくらせる医薬品。その作用は少々複雑だ。下の図に示した通り、遺伝子は「エクソン」と呼ばれる核酸の配列の塊が集まったもので、ジストロフィンの遺伝子は79個のエクソンからなる。DMDの患者の多くは一部のエクソンが丸ごと欠失しているためジストロフィンをつくれない。

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 ビルテプソは、こうした一部のエクソンを欠失した患者に対し、さらに別のエクソンを読み飛ばすことによって、正常よりは短いけれど、ほぼ正常に働くジストロフィンたんぱく質をつくらせて治療する。エクソンを読み飛ばす(スキップする)ので、エクソンスキッピング薬とも呼ばれる。

社内の風当たりは強かった

 日本新薬は20年度の売上高が1218億円と、国内では十数番手の中堅医薬品メーカーだ。だが、核酸医薬という最先端の研究に長年取り組み、日本企業として初めて実用化にこぎ着けた。ビルテプソは世界的に見ても革新的な医薬品と評価されており、20年8月には米食品医薬品局(FDA)の承認も取得した。現在はグローバルの臨床試験を実施中で、6月には中国でも承認申請した。21年度の日米での売上高は88億円を見込む。

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