消化管に炎症が生じて下痢や腹痛、血便などを引き起こす病気に「クローン病」がある。安倍晋三元首相を苦しめた潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患と呼ばれる。潰瘍性大腸炎は潰瘍やびらんが大腸の粘膜にできるのに対して、クローン病は口から肛門に至る消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が生じ得る点が異なるが、ともに原因はよく分かっていない。

 2017年に発表された全国疫学調査によると、国内患者数は潰瘍性大腸炎の約22万人に対して、クローン病は約7万人だという。ともに欧米に比べて人口10万人当たりの患者数は少ないものの、増加の傾向が続いている。

 クローン病でやっかいなのは、炎症が粘膜だけでなく腸管壁の奥にまで及び、瘻孔(ろうこう:腸管と腸管あるいは腸管と皮膚などに穴が開き、つながる)や狭窄(きょうさく:腸管の内腔が狭くなる)、膿瘍(のうよう:うみがたまる)などの腸管の合併症が生じることだ。クローン病と診断された後、数年が経過するうちに腸管合併症の割合が増えることが報告されており、外科手術が必要になる患者も多い。

 武田薬品工業が21年11月に日本で発売した「アロフィセル」は、それらクローン病の合併症が進んで生じた複雑痔瘻(じろう)を対象とした治療薬だ。複雑痔瘻は膿(うみ)がたまると激しく痛み、便失禁などを引き起こすこともある。スポーツや仕事をはじめ一般的な生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼし、重症化した場合には人工肛門を設けることもある。

 アロフィセルは、健康な成人の脂肪組織から抽出し、培養・増殖した間葉系幹細胞を用いた細胞医薬だ。18年1月に武田薬品が買収を発表したベルギーのスタートアップであるタイジェニックスが開発した。同社は武田薬品に買収されることが決まった直後の18年3月に、欧州でアロフィセルの承認を取得した。日本では武田薬品が19年3月から臨床試験(治験)を行い、21年2月に承認申請を実施。米国では現在、臨床試験を行っているところだ。

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