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 医療機関にある電子カルテや各種の検査などの情報や、健康保険組合が有する診療報酬明細書(レセプト)、調剤報酬明細書(調剤レセプト)などのデータは「リアルワールドデータ」と呼ばれている。

 当初は製薬企業のマーケティング部門が、自社の薬がどのような患者に処方されているのかを把握する目的で活用し始めたが、現在は安全性や有効性の検証や副作用の把握をはじめ、研究、開発、販売の様々な部門で活用されている。

 一方、これまでは製薬企業と大学などの研究機関での活用が中心だったが、保険会社や食品会社、スポーツジムなどへもビジネスの裾野は広がりつつある。

(写真:PIXTA)

 リアルワールドデータを活用した新しいサービスを立ち上げようとしているのは、米医薬コンサルティング企業であるIQVIAの日本法人IQVIAジャパングループだ。医薬・医療関連の情報を扱っていたIMSヘルスと、医薬品開発受託機関(CRO)であるクインタイルズ・トランスナショナルが2016年に統合して発足した。

 同社が8月にも開始しようとしているサービスは、個々人の健診データに基づいて疾患のリスクを予測すると共に、それに対してソリューションを持つ保険会社や食品会社、スポーツジムなどの健康支援企業へと誘導するものだ。

 契約した健康保険組合の被保険者の年齢、性別、身長、体重、血圧、脂質、血糖値、喫煙習慣、運動習慣の有無といったデータを基に、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中になるリスクが、同性・同年齢の平均値より何倍高いかを予測した結果を被保険者自身に通知する。

 その通知に示されたQRコードからIQVIAジャパンが開設するポータルサイトへ飛ぶと、個々人のリスクに応じた情報と、リスクに応じたソリューションを提供する健康支援企業の広告が表示されるという仕組みだ。

健康保険組合と契約して300万人分のデータを解析

 同社では、疾患のリスクを予測する部分にリアルワールドデータを利用した。約50の健康保険組合と契約し、約300万人分のレセプトと健診結果に関する匿名化されたデータを収集。レセプト情報を基に糖尿病、心筋梗塞、脳卒中で医療機関に受診した人を特定し、その人の健診データを遡って人工知能(AI)で解析した。これにより、健診データから疾病リスクを予測する予測モデルを開発した。

 予測モデル自体は1年ほど前から健診機関向けに提供してきた。予測モデルを用いると、リスクが平均値の何倍かを示せるだけでなく、保健指導を行う際に、数字を示して説明ができる。例えば「LDLコレステロール値をこれだけ改善すれば、心筋梗塞のリスクをこれだけ減らせる」といった具合だ。

IQVIAジャパングループが開発した予測モデルを、健診システムやパーソナルヘルスレコード(PHR)管理用アプリに組み込んだ事例

 ただし限界もある。現在、疾患リスクを予測しているのは糖尿病、心筋梗塞、脳卒中の3疾患だけだ。「がんやアルツハイマー病の疾患リスクの予測モデルを作れないかとよく聞かれるが、遺伝子や環境など複雑な要素が関係するので難しい。健診のデータだけで予測できることには限界がある」と、IQVIAソリューションズジャパンの松井信智氏は話す。

生活習慣や環境などの要因も解析

 より精緻な予測モデルの開発を目指した取り組みもある。