安倍首相が本部長を務める「新型コロナウイルス感染症対策本部」に対し、医学的な見地から助言するとの位置付けで、2月14日「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が発足した。
状況分析を行い、政府に提言するだけでなく、独自に記者会見を開催して国民への情報発信に努めるが、SNS上では批判の声も湧く。当の専門家会議の構成員であり、東京大学医科学研究所の武藤香織教授に、情報発信の難しさについて語ってもらった(インタビューは4月25日に実施、5月7日までの状況を反映した)。

武藤香織氏
1995年慶應義塾大学大学院社会学研究科修了。東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻、財団法人医療科学研究所、米国ブラウン大学、信州大学を経て2007年より東京大医科学研究所准教授、2013年より現職
2月14日に新型コロナウイルス感染症対策本部に設置された新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の構成員を務めておられます。日ごろの研究内容と専門家会議構成員に加わった経緯を教えてください。
武藤:私の専門は医療社会学で、新しい技術が世の中に導入されるときの倫理的、法的、社会的課題を考える、ELSIと呼ばれる研究をやっています。主たる関心事は、患者さんや一般の人と、研究の現場とのコミュニケーションをどのように行っていくかということです。
今回どうして私が専門家会議に入ったのかについてはよく分かっていません。これまで感染症に関する論文を書いたこともありませんので。
「このような立場で専門家会議に参加して発言してくれ」といった話も特になかったのですか。
武藤:明確には言われていません。そもそも専門家会議は、研究機関や学会などが設置する倫理審査委員会などと違って、こういう要件の委員で構成するといった規定もありません。どうして私が加わっているのかは、選んだ側に聞いてくださればうれしいです。
意思決定するのは政府であり対策本部です
4月18日に日本感染症学会が開催したシンポジウムで登壇されました。講演では専門家会議の位置付けが不明確であると指摘されていました。
武藤:専門家会議は、内閣総理大臣を本部長とする新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言するとしか定められていません。
そうなると、医学に関する助言はしますが、意思決定するのは政府であり対策本部です。専門家会議からの助言や提言を彼らがどう受け止めて、世の中に与える社会的、経済的影響を考慮して政策につながっているのかについて、少し見えにくい部分があるように感じています。そのため、感染症学会のシンポジウムでも、「経済的なシミュレーションはどこかで行われていると信じたい」と述べました。
専門家会議で議論して提言されたことと、実際の政策とで異なっている部分もあるわけですね。
残り5572文字 / 全文6674文字 【春割】日経電子版セット2カ月無料 会員の方はこちら 【春割/2カ月無料】お申し込みで 人気コラム、特集記事…すべて読み放題 ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能 バックナンバー11年分が読み放題この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
この記事はシリーズ「橋本宗明が医薬・医療の先を読む」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?