第一三共は2021年4月5日、2025年度を最終年度とする第5期中期経営計画を発表した。2020年度の売上収益が9600億円、営業利益が600億円、研究開発費控除前営業利益率が32%、自己資本比率(ROE)が4.4%の見込みであるのに対して、2025年度の売上収益を1兆6000億円、研究開発費控除前営業利益率を40%、ROEを16%とする計数目標を打ち出した。

 5年間で売上収益を1.67倍にする。従来は2018年度から2022年度の5年間で研究開発費に1兆1000億円を配分するとしていたが、2025年度までの5年間の研究開発費を1兆5000億円に引き上げて、抗がん剤の開発を加速させる。これにより、第5期中計の前半は「投資先行期」だが、後半は「利益拡大期」と位置付けた。2025年度の売上収益の37.5%に相当する6000億円以上をがん領域で稼ぐことを目指す。

第⼀三共の眞鍋淳社長(2019年12月撮影)

 強気の目標を支えているのは、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれるタイプの抗がん剤の開発が順調に進んでいるからだ。ハーツー(HER2)と呼ばれるたんぱく質を標的とする「エンハーツ」は既に日米欧で乳がんを対象に承認され、日本と米国では胃がんに対しても承認を取得した。

 エンハーツは現在、大腸がんや肺がん、より早期の乳がん、胃がんにも使えるようにするために、合計24本の臨床試験を行っている。このエンハーツに続いて、ティーロップツー(TROP2)というたんぱく質を標的とするADCで合計6本、ハースリー(HER3)というたんぱく質を標的とするADCで合計5本の臨床試験を進行中だ。

 TROP2、HER3を標的とするADCは、まずはそれぞれ特徴の異なる肺がんに対する承認取得を目指している。第一三共ではこの3つの抗がん剤を「3ADC」と称し、研究開発費を重点的に投下してきた。研究開発費だけでなく、設備投資も今後5年間で約5000億円実施する計画だが、最大3000億円分を3ADCに振り向ける。

「がんの看板は下ろすのか」と問われ

 第一三共が前回の中計を発表した2016年には、まだADCのトップバッターであるエンハーツの最初の臨床試験の結果も出ていなかった。臨床試験を進めるうちにADCの可能性がクローズアップされると、経営陣は大きくかじを切って研究開発リソースの多くを3ADCに投入した。

 ADCの開発を加速するために、英アストラゼネカと2019年3月にエンハーツに関して、2020年7月にはTROP2を標的とするADCに関して、それぞれ戦略的提携を締結。アストラゼネカのリソースも活用して、グローバルでの開発を推進してきた。

 前回の中計では、2025年のビジョンとして「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を掲げ、研究、開発、製造、販売に至るまで会社を大きく変えてきた。ところが今回の中計では、2030年のビジョンを「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」とした。

 眞鍋淳社長は説明会で、「がんの看板は下ろすのか」と問われ、「2025年ビジョンはかなり高い確度で実現できる見通しとなったので、あえてがんの文字は外した」と胸を張った。

医療用医薬品としては異例の迅速さ

 3ADCへの投資が実り、順風満帆な第一三共だが、落とし穴がないわけではない。1つは競争の激しいがん領域で、3ADCの売上収益を見積もった通りに伸ばせるか。もう1つは、3ADCによる収益拡大は実現したとして、その次の種をまくことができるか。

 特に、研究開発に時間がかかる医療用医薬品事業においては、長期的な視点に立って種を仕込んでいくことが重要だ。2016年に前回の中計を策定した時点では、エンハーツの最初の臨床試験の結果がまだ出ていなかったと述べたが、第一三共の研究所でADCのプロジェクトが始まったのは2010年のことで、承認取得までには10年近い時間がかかっている。それでも医療用医薬品としては異例の迅速さだ。

 だからこそ中計で眞鍋社長は、第2世代のADCや改変抗体、核酸医薬などの例を挙げて、3ADCに次ぐ成長ドライバーの見極めに取り組んでいることをアピールした。だが、3ADCのような大ヒットを生み出せるかどうか。

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