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 塩野義製薬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する創薬研究を始めていることを明らかにした。社内に有している候補化合物の中から、新型コロナに対して有望な化合物を見いだしつつあるという。伝統的に感染症領域の研究に強い塩野義。新型コロナでも力を示せるだろうか。

 このほど開いた研究開発に関する説明会で、木山竜一医薬研究本部長が明らかにした。同社では「今回の流行が発生する前からコロナウイルス感染症に対する創薬研究に着手しており、新型コロナウイルスを入手して実験ができるようになった」(木山竜一医薬研究本部長)という。

 塩野義は伝統的に感染症領域の研究に強く、「シオマリン」「フルマリン」「フロモックス」などの抗生物質を生みだしてきた。現在も「ゾフルーザ」や「ラピアクタ」などの抗インフルエンザ薬や、重症感染症治療薬の「セフィデロコル」などを販売し、英グラクソ・スミスクラインと共同で創製した抗HIV薬の「ドルテグラビル」がもたらす収入が、収益の大きな柱になっている。抗HIV薬関連のロイヤルティー収入が2019年3月期には1200億円を超えた。ドルテグラビルはグラクソ、米ファイザーと塩野義が出資する英ヴィーヴが権利を有しており、塩野義にはロイヤルティー収入とは別に同社から配当収入も入ってくる。

塩野義は感染症領域の研究に強い(写真:PIXTA)

 だが、成功が大きければその後の大きな落ち込みに備えなければならないというのが製薬業界の常識だ。大型薬の特許が切れた後に訪れる業績の落ち込みをパテントクリフ(特許の崖)と称し、それをいかにして回避するかが中長期の経営戦略の要諦となる。

 ドルテグラビルの特許切れは28年ごろに訪れる。そのときに代わって収益の支えとなる候補化合物をどのぐらい仕込んでいるか。それを機関投資家などにお披露目することも、今回の研究開発説明会の目的の1つだったのだろう。

 もっとも、新型コロナに対する創薬研究は、臨床試験を始める前に、まだまだ時間をかけて化合物を改良しながら安全性や有効性を高めていく必要がある段階だ。ただ、通常のかぜの原因となるコロナウイルスはなくなるわけではないし、今回の新型コロナウイルスも、インフルエンザのように毎年流行するウイルスとして定着していく可能性もある。今後再びコロナウイルスがパンデミックとなったときに備えるという意味でも、その創薬研究の行方に関心が高まるだろう。

 研究開発説明会で、治療の常識を変える可能性がある主力の開発候補品が8品目紹介されたことも触れておこう。小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」とはまた異なる仕組みで、がんが免疫を回避するのを妨げる制御性T細胞阻害剤や、細胞内に潜伏感染して休眠中のウイルスをたたき起こして免疫で排除するHIVに対する根治薬など、ユニークなものが多かった。ただ、8品目中3品目は動物実験の段階、残りも多くは治験の初期段階で、どれぐらいの確率で成功するかは見通しにくい。

 主力品のうち、最も早く出てきそうなのは、21年度に承認取得を見込む再生誘導医薬品のレダセムチドだ。この医薬品の投与により、骨髄の中から血液中に幹細胞を分泌させ、体の傷ついた部位を修復しようというもので、大阪大学発ベンチャーのステムリムから、全世界の開発、製造、販売権を取得した。既に大阪大学などが表皮水疱(すいほう)症という疾患に対する医師主導治験を終えており、有効性が1年程度維持されるかを追跡した上で承認申請する見通しだ。ただし、表皮水疱症というのは非常にまれな疾患だ。塩野義はレダセムチドに関して急性期脳梗塞患者に対する治験も開始しており、大型薬に育つかどうかはその結果を待つ必要がありそうだ。

 説明会からは、塩野義が今後も成長するために、ペプチドやワクチンといった新しい技術の取り込みにも余念がないことが理解できた。今後、製薬産業はITなどの異業種も交えて競争環境が混沌としていくことが見込まれている。説明会で示した、「自社創薬力を磨き続け、他社・他産業から選ばれる存在へ」という言葉は、中堅規模の日本の製薬企業としてどのように生きていこうとしているかがよく分かるメッセージだった。