新型コロナウイルスの感染の有無を検出する遺伝子検査(PCR検査)に対する公的保険の適用が3月6日、始まった。より多くの人が検査を受けられるようになるとの期待が高まるが、実際はどうなのか。

コロナウイルスの感染の有無を検出する検査の需要が高まっている(写真:picture alliance/アフロ)
コロナウイルスの感染の有無を検出する検査の需要が高まっている(写真:picture alliance/アフロ)

 これまで新型コロナウイルスに対するPCR検査は行政検査として実施されてきたため、医師が必要と判断しても、保健所に相談した上でないと実施できなかった。今回、保険適用されたことで、医師は検査会社などに直接PCR検査を依頼できるようになった。通常であれば医療費の一定割合は患者が自己負担しなければならないが、新型コロナウイルスの検査については自己負担なしで受けられる。

 だからといって、心配な人が誰でも検査を受けられるようになるわけではない。

 新型コロナウイルスへの感染が疑われる人は帰国者・接触者相談センターに電話連絡の上、全国に800カ所程度指定されている帰国者・接触者外来に受診することとされてきた。今後もその流れは基本的には変わらない。PCR検査は帰国者・接触者外来か、それと同様の機能を有する医療機関として都道府県等が認めた医療機関でしか実施できないからだ。

 例えば、大手検査会社であるビー・エム・エルは3月6日、検査の受託に関するリリースの中で「厚生労働省の指定がない医療機関からの検査受託は行わない」旨の説明をしている。

 国が医療機関を限定しているのには幾つか理由がある。1つは検体を採取する際の感染予防策が十分に講じられている医療機関が多くはないことだ。感染防護服なども品薄となっており、十分な備えのある医療機関でなければかえって院内感染を引き起こすことになりかねない。

 もう1つ、精度管理の問題がある。PCR検査はウイルスから遺伝子を抽出し、そのウイルスだけが持つ配列を増幅して有無を確認するが、遺伝子の抽出や、増幅などにそれぞれどのような器具や試薬をどう用いるかについて、温度管理や手順も含めた細かなマニュアルを国立感染症研究所が作成している。これまで医療機関や検査会社はこのマニュアルに基づいて検査を実施してきた。保険適用に伴い厚労省は使える機器や試薬などを別途指定する可能性もあるが、現時点で公開されているのはこのマニュアルのみだ。

 感染研では2月5日からこのマニュアルをホームページ上で公開し、民間の検査会社などにも協力を求めてきたが、試薬の入手が困難な状態が続いた。より簡単に検査できるキット製品なども順次登場したが、感染研でその性能を確認してマニュアルに追加しなければ使えない。スイスのロシュが販売する世界初の新型コロナウイルス検出用の研究用試薬がこのマニュアルに記載されたのは2月13日だ。感染研も早い時点から試薬などの供給先を増やす必要性を認識していたようで、タカラバイオは2月6日の時点で、「感染研から要請されて、PCR用の機器や試薬を検証用に提供した」と話していた。ただし、同社の機器や試薬がマニュアルに追加されたのは3月4日に公開された最新版からだ。

 つまりPCR検査が、いわれているほど簡単な検査ではないことは理解いただけるだろうか。診断薬としてその性能が確認された製品がない状況で、研究用の試薬などを活用して全国の医療機関や検査会社が一定の精度で検査を実施できるよう、感染研は時間をかけて準備を進めてきたわけだ。保険適用後も帰国者・接触者外来などに実施を制限しているのは、検査会社の体制整備がまだ追い付いていないこともある。

 2月29日の記者会見で安倍晋三首相は、「ウイルスの検出作業を15分程度に短縮できる簡易検査機器について、3月中の利用開始を目指す」と述べたが、仮にこの装置が使えるようになっても、前処理の遺伝子抽出作業にはそれなりの手間を要するので、全体のスループットがどれほど改善するのかは分からない。

 さらに、PCR検査を巡っては、当初陰性だった人が2回目は陽性になるケースや、陰性になって治ったと判断された人が再度感染したといった事例が報告されている。検査でどれだけ正しい結果が出ているかは実のところ分からないのだ。誤解を恐れずに言えば、「陰性だから問題ない」と安心できるような検査ではないのが実情だ。

 PCR検査に過度な期待は禁物だ。

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