全2061文字

 大日本住友製薬は3月3日、R&D説明会を開催した。2019年に英国とスイスに本社を置くロイバント・サイエンシズとの間で総額30億ドル(約3300億円)を投じる戦略的提携を交わし、後期開発品目の不足に当面の手を打った同社が今回の説明会で強調したのは、開発の早期段階には候補品がある程度充実しているという点だ。ただし、これらを将来の収益につなげるためには、しっかりと新薬に育て上げる力があるかが問われる。

 新型コロナウイルスによる感染症の拡大を避けるため、機関投資家や報道陣を招いて計画されていたR&D説明会は、日米を結んだインターネットによるライブ配信で開催された。野村博社長は「これまで、早期段階の開発の方針について十分な説明ができていなかったので、このような時期ではあるが、開催させてもらった」などと説明した。

説明会はライブ配信で開催。野村博社長が「CHANTO」をキーワードに研究開発の状況を説明した

 その同社の研究開発の方針は、精神神経領域とがん領域、再生・細胞医薬分野の3領域に焦点を絞り、グローバルリーダーを目指していくというものだ。精神神経領域では候補化合物が11個、がん領域でも11個、再生・細胞医薬では6個のプロジェクトを手掛けていることを紹介した。とりわけ精神神経領域については、米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の同領域の候補品が14個、スイスのロシュが12個、米イーライ・リリーが12個、武田薬品工業が8個、エーザイが6個といった数字を示し、「11個という当社の数字はビッグファーマに引けを取らない。この領域で長年にわたって研究開発を続けてきた成果だ」(常務執行役員の木村徹取締役)と胸を張った。

 新薬の創出に向けては、光遺伝学や人工知能(AI)などの新しい技術を駆使して取り組んでいることを紹介。強迫性障害という疾患の治療薬として早期の臨床試験を開始したDSP-1181という候補品の研究では、共同研究相手である英エクセンシアのAI技術を活用することで、「探索研究の期間は普通4、5年だが、12カ月もかからなかった」(木村取締役)と説明。さらに、「研究テーマの発案者をプロジェクトのリーダーに任命し、プロジェクトが研究段階から臨床試験の段階に進んでも同じメンバーに継続させる。リーダーには予算の執行権とメンバーの人事評価権を与える。20代のリーダーが20人のプロジェクトを率いるような例も出ている」という研究プロジェクト制の導入など、組織体制も見直していることを紹介。「精神神経領域の研究段階の品目で次の段階に進むのはこれまで年間2品目ぐらいだったが、20年度は多ければ11品目となり、今後も高い水準で続く見通し」(木村取締役)などと語った。

 がん領域でも、がんの著名な研究機関である米ダナ・ファーバーがん研究所の研究成果に主に投資する米国のファンド、MPMキャピタルが設立したファンドに出資したことなどを紹介しながら、「外部のイノベーションを取り込みながら、先端的な技術を活用してコンパクトでスピーディーな研究開発を追求していく」(がん領域のグローバルヘッドの越谷和雄常務執行役員)などと説明した。

 もっとも、同社の候補品は、精神神経領域もがん領域も早期の臨床試験を開始したばかりのものが多い。これら早期段階のものは、仮に開発がうまくいっても実際に収益として貢献するのはまだ何年も先になる。再生・細胞分野に至っては、6個のプロジェクトのうち半分が提携先の大学などで臨床研究を行っていたり、動物実験を行っていたりという段階のものだ。今後、臨床試験をしっかりと成功させていかなければ、果実を手にすることはできない。

 説明会の冒頭、野村社長は「CHANTO」という言葉を使い、「新薬の開発をちゃんとやりきることが製薬企業にとっての使命だ」などと語ったが、恐らくそこには社内に対するメッセージも含まれていると思われる。説明会では、4月1日付でチーフ・サイエンティフィック・オフィサーというポストを設け、これまで研究を統括してきた木村取締役が研究開発全体を統括する体制に移行することも紹介されたが、これも開発までしっかりやり抜く体制作りの一環だろう。

 その同社にとって、直近の業績を左右する最大のイベントは、現在、最終段階の臨床試験を進めているナパブカシンの開発の成否だ。2012年に米ボストン・バイオメディカルを買収して手に入れた候補品で、早い段階からがん領域の柱となることが期待されていたが、2017年に胃がんを対象とした最終段階の臨床試験を中止し、2019年には膵がんを対象とする臨床試験を中止している。結腸直腸がんを対象に実施している米国での臨床試験の結果は20年夏ごろにも明らかになる見通しだ。同社に「ちゃんとやりきる力」が備わっているかは、まずはそこで問われることになる。

■変更履歴
当初、「約30億円」としたロイバント・サイエンシズとの戦略的提携で投じた金額は「30億ドル(約3300億円)」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2020/03/05 11:30]