NTTは2月20日から東京・千代田の本社14階の来客受付に、遠隔にいる人とコミュニケーションを取れる分身ロボットを設置した。体に障害があったり、病気で入院を余儀なくされている人が、自宅などからロボットを遠隔操作して来客を会議室まで誘導したり、待ち時間に会話したりして接客・対応する試み。障害者雇用の拡大につながるだろうか。

本社の来客受付で出迎える分身ロボット
本社の来客受付で出迎える分身ロボット

 受付業務を行うのは、オリィ研究所(東京・港)が開発した分身ロボットの「OriHime-D」。120cmほどの高さのロボットで、手や顔を動かして会話をしたり、前進や旋回などの運動をしたりすることができる。

 パイロットと呼ばれるロボットの操縦者は、遠隔地に在住の2人の女性だ。1人は拘束型心筋症という心臓の疾患で大阪府の病院に長期入院し、心臓移植手術の待機をしている。もう1人は愛知県在住で、交通事故による脊髄損傷で両足に障害を持ち、車椅子での生活を余儀なくされている。この2人で平日13時から16時の間でシフトを組み、遠隔地からパソコンやタブレットを使って分身ロボットを操縦する。

 オリィ研究所ではこれまでにOriHime-Dや、高さ23cm程度とより小型でコミュニケーションに特化した分身ロボット「OriHime」を利用して、身体障害者などがカフェで働く「分身ロボットカフェ」を実験的に行ってきた。その協賛企業であるNTTの池田円ダイバーシティ推進室長が実際にカフェで分身ロボットによる接客を経験したことがきっかけで、今回の受付業務トライアルに結びついた。

 今回、OriHime-Dが行う業務として想定するのは、訪問客を会議室に誘導したり、社員が来るまでの間会話をしたり、退室時に忘れ物がないか声かけしたりすることだ。「現在、スタッフが行っている会議室への誘導を、本当に分身ロボットが代わりにできるのかをトライアル期間中に確認したい」と池田室長は話す。今回は3月31日までの期間限定で取り組むが、「費用との兼ね合いで継続する意義があると判断できれば、障害者の雇用などにつなげたい。3月末までには判断したい」と付け加える。

 その費用についてだが、「分身ロボットにどのような動作を行えるようにしたいかなどケース・バイ・ケースで違ってくるので一概には言えない」とオリィ研究所の吉藤健太朗CEO(最高経営責任者)は言う。今回はスムーズに案内できるようカフェで使った分身ロボットよりも移動スピードを速めるなどの改良を行った。障害者の状態に応じて、視線入力などのインターフェースも用意されており、それによっても費用は違ってくるだろう。「いずれは汎用的な機能の分身ロボットで商用化も考えているが、当面は実証実験に協賛してもらう形になる」とのことだ。

 ただ、小型の分身ロボットについては月4万円からのレンタルなどで既に商用化を開始している。「現在全国で約600台のOriHimeが稼働しているが、うち約半分はビジネスとして提供しているものだ」と吉藤CEO。障害者雇用だけでなく、育休中の社員が会議に参加する目的で利用しているようなケースも多いという。

コミュニケーションに特化した分身ロボット「OriHime」。オリィ研究所はOriHimeのレンタル事業も始めている
コミュニケーションに特化した分身ロボット「OriHime」。オリィ研究所はOriHimeのレンタル事業も始めている

 NTTの場合、遠隔地にいる人が通信技術を利用してオフィスで働くというコンセプトが本業のアピールにつながることも、今回のトライアルを実施した背景にある。一方で、障害者雇用が普及していかない背景には、企業側がどのような業務で利用すればいいのかが分かっていないケースもありそうだ。実際、オリィ研究所には幾つかの企業から、分身ロボットのトライアルなどの相談も寄せられているという。

 吉藤CEOは今回のトライアルに対して、「分身ロボットがオフィスの中でどんな働きができるのかを探る狙いもある。受付業務をやってみて、実は受付ではなくて、別のこんな業務の方が向いているということが分かるかもしれない。あるいは受付という業務に別の価値を見いだせるかもしれない」と話す。

 受付業務のデモンストレーションの取材に集まった報道陣がロボットの一挙手一投足を見守っていたため、実際に分身ロボットを操縦した坂本絵美さんはデモを振り返って「大変緊張した」と話す。今回のトライアルに向けては、「お客さんとどんな話をしようか考えるなど、練習を重ねてきた」とのことだ。いまはまだ物珍しい存在だが、いずれは身体障害者などが分身ロボットを使ってオフィス内で働く姿が珍しいものではなくなる日が来るかもしれない。

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