新型コロナウイルス感染症向けのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで世界的に著名企業となった米モデルナは2023年1月、東京大学のキャンパス内に本社を置くOriCiro Genomics(東京・文京、オリシロジェノミクス、以下オリシロ)を8500万ドル(約110億円)で買収すると発表した。オリシロは、立教大学理学部生命理学科の末次正幸教授が開発した研究成果をベースとして、18年12月に設立されたスタートアップだ。デオキシリボ核酸(DNA)の合成に関する独自技術を有している点がモデルナの眼鏡にかなったとみられる。23年2月6日、オリシロの経営幹部にインタビューした。

オリシロは、内閣府が14年度から18年度にかけて実施した革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)における立教大学理学部生命理学科の末次正幸教授(右、当時は准教授)の研究成果を生かして設立されたスタートアップ。経営者を探す過程で、老舗バイオベンチャーであるアンジェスで取締役を務めていた平崎誠司氏(左)に声が掛かり、18年12月に同氏を代表取締役最高経営責任者(CEO)、末次教授をチーフサイエンティフィックオフィサー(CSO)としてオリシロが設立された。21年にはぺプチドリームで先端開発部門のディレクターを務めていたバシルディン・ナセル・加藤氏(中央)が最高技術責任者(CTO)として入社し、22年9月からCEOを兼務し、平崎氏は取締役プレジデントに。今回のモデルナによる買収に伴い、平崎氏は経営の一線から退きオリシロのコンサルタントとなり、バシルディン氏はジェネラルマネージャーに就任した
オリシロは、内閣府が14年度から18年度にかけて実施した革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)における立教大学理学部生命理学科の末次正幸教授(右、当時は准教授)の研究成果を生かして設立されたスタートアップ。経営者を探す過程で、老舗バイオベンチャーであるアンジェスで取締役を務めていた平崎誠司氏(左)に声が掛かり、18年12月に同氏を代表取締役最高経営責任者(CEO)、末次教授をチーフサイエンティフィックオフィサー(CSO)としてオリシロが設立された。21年にはぺプチドリームで先端開発部門のディレクターを務めていたバシルディン・ナセル・加藤氏(中央)が最高技術責任者(CTO)として入社し、22年9月からCEOを兼務し、平崎氏は取締役プレジデントに。今回のモデルナによる買収に伴い、平崎氏は経営の一線から退きオリシロのコンサルタントとなり、バシルディン氏はジェネラルマネージャーに就任した

買収に至る経緯は。

平崎誠司・現コンサルタント(以下、平崎氏):最初のコンタクトは22年前半に当時、我々が提供していた試薬キットを試してみたいという申し出だった。モデルナはmRNAワクチンを開発・製造しているが、製造段階でプラスミドDNAと呼ばれる環状のDNAを増幅する工程がある。通常は大腸菌を用いて環状DNAを増やすが、我々の技術を用いると大腸菌などの生きた細胞を使わずに環状DNAを増やすことができる。DNAの無細胞増幅技術と呼ばれるものだ。この技術を使うことにより、一般論としてmRNAワクチンの開発・製造のリードタイムを短くするのに貢献できることが認められたのだと思う。

多くのスタートアップは新規株式上場(IPO)を出口と考えていると思うが、100%子会社になることを決断した理由は何か。

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