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 2019年3月期の売上高が231億6000万円と、国内の製薬企業の中でも極めて小粒ながら株式市場で大いに注目されているのがJCRファーマだ。ハンター症候群という、国内に約250人、世界全体でも約7800人しか患者がいない超希少疾患を対象とした医薬品の臨床試験で良好な結果が出て、近く承認申請するとみられているからだ。

芦田信会長兼社長が1975年に起業したJCRファーマ。飛躍の時を迎えるか

 JCRファーマは2月10日から13日にかけて、米フロリダ州オーランドで開催された国際学会で、開発中の医薬品候補「JR-141」の臨床試験に関する幾つかの発表を行った。JR-141はハンター症候群という希少疾患を対象にした候補品。ハンター症候群は、ムコ多糖という物質を分解する酵素の働きが生まれつき弱いもしくはないために、体の中にムコ多糖が蓄積して様々な症状が現れる遺伝性の疾患だ。この疾患に対して、イデュルスルファーゼという酵素製剤を使った治療が行われているが、従来の薬は静脈に投与しても脳の中には入っていくことができず、精神発達遅滞などの脳に関連する症状を改善するのが難しかった。⾎液と脳の間にある⾎液脳関⾨という仕組みが、たんぱく質でできた酵素製剤をブロックしてしまうからだ。

 JCRファーマはこの関門を突破できるようにする「Jブレイン・カーゴ」という独自技術を考案。イデュルスルファーゼにこの技術を適用したのがJR-141だ。国際学会での発表では、JR-141の静脈内投与により、患者の脳内にあるヘパラン硫酸という物質が減少するとともに症状が改善したことを報告した。特に、初期の臨床試験でJR-141の投与を受けてヘパラン硫酸が減っていた患者において、臨床試験終了後にはヘパラン硫酸の濃度が高まったが、後期の臨床試験で再びJR-141を静脈内に投与するとヘパラン硫酸の濃度が減少したことを報告。これらの患者では、「数字が数えられるようになった」「表情が豊かになった」といった変化が見られたことも報告した。これらにより、JR-141は狙い通り脳内に入って作用しているものと考えられる。

 こうした臨床試験の結果に基づいて、JCRファーマでは近くJR-141の承認申請を行うべく準備をしている。良好な結果を基に規制当局との話し合いも順調に進んでいるようで、同社ではこれまで「20年度中」としていた日本での承認申請の時期を「20年中」に前倒しした。

 もっとも、JR-141の1製品の日本での売上高だけではさほど大きな数字にはならないだろう。今回の学会発表が大きく注目されたのは、Jブレイン・カーゴの技術により、酵素製剤が血液脳関門を突破できるようになると臨床試験で実証できたことだ。生まれつき特定の酵素の働きが弱かったり、なかったりして、精神発達遅滞などの症状が現れる希少な遺伝性疾患はまだまだたくさんある。Jブレイン・カーゴは、それらの疾患の治療薬を生み出す可能性をも秘めているのだ。

 実際、JCRファーマではJR-141に続いて、ハーラー症候群に対するJR-171、ポンペ病に対するJR-162、サンフィリッポ症候群A型に対するJR-441など、5つの酵素製剤の臨床試験を3年以内に開始すべく準備を進めている。さらにその先で、10の遺伝性疾患に対する酵素製剤の動物実験なども行っている。いずれも酵素の不足により生じる希少な遺伝性の疾患だ。

 1975年に芦田信会長兼社長が起業し、高級住宅街である兵庫県芦屋市の一角に本社を構える風変わりな製薬企業が、Jブレイン・カーゴという独自技術によって大きな変貌を遂げようとしているのだ。