前回は「トマト、マダイ、トラフグ……、ゲノム編集食品が市場へ

 生物の遺伝情報であるゲノムをピンポイントで書き換えるゲノム編集技術。この技術を使って品種改良した農水産物が、事実上の販売認可を得始めた。SNSなどで認知され、オンライン中心で販売され、一般の食卓に上っている。第2回は「高ギャバトマト」。

サナテックシードのギャバ高蓄積トマトの流通が始まった
サナテックシードのギャバ高蓄積トマトの流通が始まった

 機能性成分「γアミノ酪酸(ギャバ)」の含有量を増やした高ギャバトマトは、パイオニアエコサイエンスが92%を出資し、筑波大学の江面浩教授らと2018年4月に設立したサナテックシード(東京・港、竹下心平社長)が開発した。

 パイオニアエコサイエンスの竹下達夫会長は、1980年代に米種苗大手のパイオニアハイブレッド(現コルテバ・アグリサイエンス)と日本で合弁会社を設立。2016年に全株式を買い取ってコルテバとの資本関係を解消し、現社名に変更したが、代理店契約は継続している。

 竹下会長は16年ごろ、コルテバの役員から、ゲノム編集技術の一つである「クリスパー・キャス9」のことを聞いた。「品種改良に革新をもたらすすごい技術だと思った。従来、例えば病気に強い品種を交配によってつくろうとすると、収量が落ちるなどマイナスも生じたが、ゲノム編集には1つの性質だけをピンポイントで改良できるという利点もある」

遺伝子組み換えに抵抗強く

 ギャバは様々な生物が持つアミノ酸の一種で、血圧や睡眠に関する機能性を表示したサプリメントが販売されている。通常のトマトにもギャバは含まれているが、江面教授らは内閣府のプロジェクトの中で、ゲノム編集によりトマトが持つある遺伝子を抑えることで、ギャバの含量を通常のトマトの15倍程度にまで増やすことに成功していた。

 だが、実用化に取り組む企業がなかなか見つからなかった。というのも、これまで遺伝子組み換え農作物の開発や輸入を試みた企業は幾つかあったが、消費者の支持が得られず、定着してこなかったからだ。

 「消費者団体などから反対の声が上がる可能性があり、大手がやろうとしない理由はよく分かった。だが、我々のような小さな企業にとって、この技術革新はチャンスだと思った」(竹下会長)

 パイオニアエコサイエンスは種苗や農業資材などを農家やゴルフ場などに販売する中堅企業だ。高ギャバトマトの実用化に際しては、ビジネスモデルが課題となった。

 「農家に種を売り、農家がそれを栽培してスーパーに売るというやり方だと、消費者に届くまでに2つの“ゲート”がある。消費者やマスコミを含め、それら全てを説得するのは大変だ。そこで、農家と消費者を兼ねている家庭菜園の人たちに苗を無償で配ろうと考えた。SNS(交流サイト)が新しいメディアとなっている時代に、彼らがそれを通じて情報発信してくれることに期待した」と竹下会長は話す。

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