新薬メーカーなどからなる日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長(エーザイ最高執行責任者)は1月20日に記者会見を行い、健康保険の給付範囲の見直しや、支払い能力に応じた負担構造の見直しなど、社会保障制度全般について「従来の枠組みを超えた国民的議論が必要だ」と訴えた。これまでにない踏み込んだ発言の真意はどこにあるのか。

1月20日にオンラインで記者会見した日本製薬工業協会の岡田安史会長
1月20日にオンラインで記者会見した日本製薬工業協会の岡田安史会長

 これまで業界団体として、革新的な医薬品に対する薬価の評価の見直しなどを要望してきた製薬協。この日の会見では岡田会長が「全ての医薬品を公的保険でカバーするのを見直す必要も出てくる」と言及するなど、医薬品メーカーにとって不利ともいえる内容にも踏み込み、社会保障制度に関する業界内外での議論を促した。

 背景にあるのは、「このままでは社会保障制度が立ちゆかなくなる」(岡田会長)との危機感だ。

 医薬品メーカーはこれまでに様々な感染症治療薬や抗がん薬、生活習慣病治療薬を開発し、疾患の克服に結び付けてきた。最近は低分子化合物でできた医薬品だけでなく、バイオ医薬や遺伝子治療、デジタル治療などの開発も推進。イノベーションによる疾患克服、健康維持・改善に弾みを付けようとしている。

 日本はこれまで、薬価制度の改革などを通じて革新的な医薬品・治療技術の登場を促そうと試みてきた。その一方で、国民皆保険制度の下、国内の医療用医薬品の市場が一定規模に抑えられてきたという事実もある。2016年と21年の医療用医薬品市場を比較すると、世界の市場が年平均5.1%で成長してきたのに対して、日本市場は年平均0.5%のマイナス成長だった。

 なぜそのようなトレンドになったのか。岡田会長が指摘したのは、先進国のうち日本だけ、革新的新薬の薬価が特許期間中であっても引き下げられてきたという実態だ。

 09年度以降に発売され、15~20年度のいずれかの年度に日本での医薬品売上高上位10位に入った医薬品の薬価の推移を製薬協が分析したところ、発売時の薬価が維持されていたのは14品目中1品目のみ。11品目は発売時より2割以上低い薬価に引き下げられていた。

 同じ品目について米国、英国、ドイツでの薬価を調べると、薬価を維持していた品目数は米国では14品目中12品目に上った。英国でも半分の7品目、ドイツでも10品目が発売時の薬価を維持していた。

 もちろん、国によって薬価制度が異なるため、こうした違いが生じるのは当然といえる。ただ、そのことが日本の医薬品市場の魅力を低下させ、日本市場での新薬の開発・発売の優先順位が低下しているとしたら問題だ。

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