古くから薬として使われてきた低分子でもなく、2000年代から台頭してきた抗体医薬などの高分子でもない「中分子」。中分子医薬品を低分子医薬品と抗体医薬品に次ぐ第3の柱にすると2016年1月に宣言したのが中外製薬だ。水面下で技術を磨いた同社は、21年10月に中分子創薬品の第1号となる抗がん剤「LUNA18」の臨床試験(治験)を開始。約800億円を投じて中分子医薬品などの製造設備を整備することも決めた。中外製薬の中分子創薬戦略とはいったいどんなものか。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 かつて、医薬品といえば分子量500程度までの経口投与可能なものが大半だった。1980年代に遺伝子組み換え技術が登場すると、たんぱく質でできた高分子のバイオ医薬品が作られるようになった。2000年代からは高分子の医薬品の一種である抗体医薬が登場し、一躍、創薬の主流に躍り出た。

 抗体医薬は、疾患に関わりがある生体分子が見つかれば、比較的短時間でその分子に働きかける抗体を作り出せるという大きな利点がある。しかも低分子と違って予期せぬ副作用が生じることも少ない。

 ただし、分子量が約15万と巨大な抗体医薬は腸で吸収されないため飲み薬にはできず、注射で投与しても細胞膜を通過しないので血中に漂っていたり細胞膜上に存在したりする生体分子しか標的にできないなどの制約がある。それに加えて、製造コストが高くなるため価格も高く設定せざるを得ないという課題もある。

 一方の低分子医薬は、細胞の中にある生体分子を標的にできるが、標的となるのは化合物がはまるポケット構造を持ったたんぱく質のみ。ポケット構造を持つたんぱく質は全体の2割程度にすぎないとされる。そこで、抗体医薬も低分子医薬も標的にできない細胞内たんぱく質に働きかける手段として2010年ごろから注目されてきたのが中分子医薬だった。

 この流れをリードしたのはバイオ医薬品企業のペプチドリームだ。構造を改変したアミノ酸10個前後が輪のようにつながった「環状ペプチド」が数兆種類も存在する「ライブラリー」を作り、そこから標的の生体分子と結合する候補品を選び出して創薬プロセスを進める戦略を提案した。

 低分子の創薬では、事前に用意した数百万、数千万の候補品ライブラリーから標的に結合するものを見いだして、改良を施していく手法を取ることが多い。その創薬手法を中分子の分野に持ち込んだことが、ペプチドリームが注目された理由の一つだ。

 ただ、ライブラリーの中から標的に結合する候補品が見つかっても、すんなりと開発が進むとは限らない。細胞内に入りにくいなどの課題が見つかることも多いからだ。ペプチドリームは製薬企業との提携も含め累計で120を超える創薬プロジェクトに取り組んでいるが、臨床試験の開始に至ったのはまだ3つだけだ。

 中分子創薬の難しさに直面したのは中外製薬も同じだった。

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