生き残りを「ラージ」に託す

 拙速に電動化を進めるのではなく、まずはラージ商品群で時間とキャッシュを稼ぎ、独自EVの導入を見据えて技術を磨く。古賀亮専務執行役員も「(26年3月期までの)中期計画が終わる頃には(手元資金から有利子負債を差し引いた)ネットキャッシュを5000億円くらいに積み上げて本格的な電動化に備えたい」と話す。

 マツダのネットキャッシュは22年3月期末時点で596億円にとどまる。丸本社長と古賀専務執行役員の言葉を言い換えれば、ラージ商品群の成功がEVを本格開発するための前提条件となる。マツダ経営陣はEV時代への生き残りをラージ商品群に託した格好だ。

 足元ではEV最大手の米テスラや米ゼネラル・モーターズ(GM)、ドイツのメルセデス・ベンツグループ、スウェーデンのボルボなどが相次ぎEV版の中・大型SUVを発表している。このままEVシフトが加速すると、このカテゴリーでもEVが消費者にとって魅力的な選択肢になるかもしれない。それでもマツダはエンジン車のラージ商品群で勝負に臨む。

 「一気呵成(かせい)に電動化を進める体力はマツダにはない。ならば焦って中途半端なEVを出すより、ファンにも納得してもらえる新しいEV向けのプラットホームをじっくりと開発したいという思いがあるのだろう」。ある業界関係者は指摘する。

EV駆動装置は自前で

 マツダは「人馬一体の走り」とか「走る歓(よろこ)び」といったスローガンを掲げ、運転すること自体を楽しむ車を開発するメーカーとして自らをアピールしてきた。11月22日の記者会見でも丸本社長は「走る歓びというブランドエッセンスを磨く」「走る歓びを追求」といったメッセージを繰り返した。

 そのスタンスに共鳴する熱心なファンに支えられ、マツダは小規模ながらもグローバルに存在感を示してきた。だからこそ、妥協したEVを安易に出すことはできない。電動化の動きに取り残されるよりも、ファンの失望を買って顧客離れを起こすことの方が痛手になる恐れがある。

出所:マツダの発表資料
出所:マツダの発表資料
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 EV開発においても妥協はしない。その姿勢は今回新たに発表した協業戦略にも垣間見える。モーター、インバーター、減速機から成るEVの駆動ユニット(eアクスル=イーアクスル)の開発を巡り、マツダは自社を主力取引先とする複数の部品メーカーやロームと組む計画を明らかにした。

 eアクスルの生産技術開発や組み立てについては中国地方の部品メーカー3社と共同出資で新会社を設立。パワー半導体を手掛けるロームと自動車向け電子部品などを手掛ける今仙電機製作所とはインバーターを共同開発する。さらにモーター開発でも関連企業2社と共同出資の新会社を設立すると発表した。

 EVの心臓部に当たるeアクスルはモーターに強い日本電産や自動車部品の世界大手であるドイツのボッシュなどが既に量産を始めており、外部調達する手はある。日産自動車に対してはジヤトコ、ホンダに対しては日立Astemo(アステモ)が供給を予定するように、親密な部品メーカーに任せるという選択肢もある。

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