本田技術研究所がAI(人工知能)を活用した「超小型モビリティー(移動手段)」の技術実証実験を茨城県常総市で始めた。二輪と四輪という両翼の開発機能を組織再編で失った同研究所。「最先端だけを突き詰める」という新たなミッションの下、社会の課題を解決する観点から伝統の「ワイガヤ」で着想した。

 「サイコマ、ハンバーガーショップまで迎えに来て」「はい。近くに到着しました。(あなたは)スマホを見ていますか? 目の前に止まりますね」。1人乗りの小さな車両が利用者の声に反応し、返事をしながら自動走行している。目的地の近くまで来ると、多くの人の中から利用者を見分けて、目の前に停車するか、別の場所で待機するかを問いかける。

人とコミュニケーションしながら自動走行する。指示すれば指定の場所に向かわせることも可能だ
人とコミュニケーションしながら自動走行する。指示すれば指定の場所に向かわせることも可能だ

 ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所が開発する超小型モビリティー(移動手段)「CiKoMa(サイコマ)」の技術実証実験の1コマだ。2030年ごろの実用化を目指し、茨城県常総市で11月から始まった。

 近くのテストコースには、2人乗りの超小型電気自動車(EV)も走り回る。ペダルやハンドルを操作する必要はない。ボタンを押せば自動で走り出し、据え付けられたジョイスティックを左右に倒すだけで、適切な速度、適度な場所でスムーズに曲がってくれる。速度は最高でも30キロほど。自動走行も可能だから、乗り捨ての自動運転タクシーのような利用法も想定されている。

搭載したカメラの情報を分析することで、地図に頼らなくても自動走行できる。人が乗る際はジョイスティック一つで操作できる
搭載したカメラの情報を分析することで、地図に頼らなくても自動走行できる。人が乗る際はジョイスティック一つで操作できる

 このほか、会場には活用が始まったばかりの着脱式可搬バッテリーを搭載したゴルフカートのような車両もある。ドライバーの視線を分析し、視界から外れた場所にいる歩行者の存在を知らせたりする技術を検証している。

10年前の超小型モビリティーが復活

 いずれの車両も「CiKoMa(サイコマ)」という名称で開発が進む。独自開発のAI(人工知能)、「Honda CI」を活用し、言葉やジェスチャーを理解して人と対話したり、高精度な地図やセンサーに頼ることなく自動走行したりする技術が搭載されている。実現すれば高齢者でも気軽に利用できる地域の足になると研究所は考えている。