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「空飛ぶクルマ」を実現しようとトヨタ自動車を辞めて独立し、今年8月には公開で有人飛行実験に成功したスカイドライブ社長の福澤知浩。起業に至った経緯や、日本発のものづくりスタートアップの課題を聞いた。

参考記事:辞めトヨタが創る空飛ぶクルマ もの作りスタートアップは輝けるか

福澤知浩(ふくざわともひろ)
SkyDrive代表取締役CEO。2010年、東京大学工学部を卒業。トヨタ自動車に入社し自動車部品のグローバル調達に従事。17年に独立し、製造業の経営コンサルティング会社を設立。18年、SkyDriveを創業、代表に就任。

今回、公開有人飛行実験に成功しました。事業化という最終目標から見て、現在の到達点はどれくらいでしょうか。

福澤知浩・スカイドライブ社長(以下、福澤氏):一般の人を乗せてサービスを開始する、というゴールから言うとまだ3~4割程度です。今後残された課題は、既存の航空機並みの安全性を確保して型式認証を取ること。航空機で認証を取れた会社は、日本国内にまだ1つもありません。ホンダジェットもプロトタイプは日本ですが、北米の子会社で認証を取っています。我々のような小さなベンチャーがその壁を越えられるかが、一つ大きな課題です。

 ただ、やることは決まっているので道筋はわかっています。やることの量が多いので、それを皆で整理しながらやっていけるかどうかが勝負です。例えば今の機体は1人乗りですが、それを2人乗りにしたり、雨や風の中でも飛べるようにしたり。故障しにくいシステムや部品にしていくことも必要です。

 このチャレンジはフルマラソンみたいなものです。リタイアするか、早くゴールするか、遅くゴールするか。販売開始までは行けると思っていますが、そのタイミングがいつになるかという話です。なるべく効率よく走りたいと思っています。

空飛ぶクルマの開発を始めたり、コンサル会社を起業したりと、新しいことを始めるモチベーションは何でしょうか? 社会貢献や、成功など様々なパターンがあると思いますが。

福澤氏:やっぱり「ものづくりは楽しい」ですね。おまけに良いものができて世界中の人が喜んでくれたらなおさらいいな、と。社会貢献と言えるほど大きな目的意識ではありません。スカイドライブは文化祭みたいなものだと考えてください。僕は文化祭実行委員長。「合唱で男子が歌ってくれません!」というような問題をなんとか解決して本番を迎える。その合唱で、誰かが感動して泣いてくれたらうれしいなと思っています。

 直近にアップロードした飛行実験の動画は百数十万回再生され、色々な人が見てくれました。中には、「俺も頑張ろうと思った」とか「空飛ぶクルマなんてあるんだね。知らなかったけど、こんな世界あっていいね」というコメントももらいました。事業化を目指して資金調達して開発して……と頑張ってきたけれど、もう今の時点でこれだけ世の中に付加価値を出せているんだと思いましたね。エンタメとして日々の活力に貢献してるんだなと。僕たち割と費用対効果いいなと(笑)

見る人にロマンを感じてもらえて、応援してもらえるというのはいいですね。

福澤氏:それに加えて、我々や(電動車椅子を開発する)WHILL、(家庭用ロボットなどを開発する)GrooveXといったハードのスタートアップが少しずつものづくりで成功していけば、「こういう会社も面白いんじゃない」という気づきになり、人材の流動化も活発になり、会社がさらに強くなったり新しい会社が増えていったりすることにもつながります。日本はまだまだハードウエアのスタートアップが弱い。それは結局、良い人材がスタートアップに来ない、特に製造業であればあるほど大企業に眠ってしまっているという課題に起因すると思っています。

 大企業は「変化点」をいかに小さくするかが勝負です。量産するときには、少し手順を変える、作業する人を変える、工具を変える、それだけで品質が変わってしまいます。いかに変化点を少なくできるか、という世界にいる人は、人生の変化点が少ない人なんですよ。「今日はこうやってみよう」と試してみてはまずいから(笑)

 ポジティブに表現すると、日々の単純な毎日でも充実していると感じられるハートの持ち主とも言える。そうなってくると、よほどのことがなければ転職するわけがない。でも、優秀な人は本当に多い。

 その上、工場が郊外にあることも多いので、都会の情報をゲットできなくて、「実は自分の会社よりも面白い会社がいっぱいある」とは気づきにくい。転職する、外に出る、と言ってもどこに行くの? となってしまいます。これは重大な構造上の問題です。