マンション管理会社の三菱地所コミュニティは、10月から首都圏の系列マンション敷地内で移動販売車による物販サービスを開始した。飲食販売を中心に、豊洲市場(東京・江東)の鮮魚卸売業者、ベーカリー、生花店などがマンション敷地内に日替わりで出店する。コロナ禍でオフィス出勤と引き換えに在宅時間が増える中、これまで都心のオフィス街で姿を見かけることの多かった「フードトラック」が、営業エリアを住宅街に拡大している。

フードトラックはこれまでの都心のオフィス街から住宅街やマンションへも出店を広げている

 三菱地所コミュニティが連携するのは、移動販売車による飲食・サービス提供を支援するスタートアップ企業のMellow(メロウ、東京・千代田)だ。メロウは移動販売車の店主と出店場所を提供するビルオーナーなどをつなぐプラットフォーマー。これまでは昼時のオフィス街のランチ需要にあわせ、都心のビル下の「隙間」を主戦場としていたが、世の中が在宅勤務にシフトしたため、人の動きに合わせて出店の場を住宅街へと広げてきた。

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 外出自粛が本格化した4月以降、「外食が恋しい」「休校中の子供の昼食の用意が大変」などのニーズをつかみ、臨海エリアのタワーマンションや高齢世帯の多い団地などを中心に5カ月間で約5万4000食を提供。三菱地所コミュニティも系列マンション5物件でテスト営業したところ移動販売での需要が8月までに約2万4000食あったことから今回の本格展開に踏み切った。

開業相談数が急増

 オフィス仲介の三鬼商事(東京・中央)によると、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の9月のオフィス空室率は前月比0.36ポイント増の3.43%と、7カ月連続で上昇。都心のオフィス離れが依然として進む。一方、東京カンテイ(東京・品川)によると8月の首都圏分譲マンションの平均募集賃料は、1平方メートルあたり3118円と前月から0.5%上昇。2カ月ぶりに過去最高を更新するなど住宅需要は堅調だ。

 実店舗を構える飲食店はオフィス街や繁華街から人波が消えゆく様を眺めるしかなく、コロナ禍で深刻な影響を受けた。ただ移動販売車のように人の動きに合わせて移動することができれば、住宅街に隠れる需要を迎えに行くことができる。

 6月と7月にメロウに寄せられたフードトラックの開業相談数は、いずれも3月の10倍に上ったという。他にも、医療現場などへも出店は広がる。「感染予防対策で食堂が閉まっている」「忙しく食べそびれる」など病院特有の課題が明らかになるなか、移動販売車であればこうした個別の特殊な需要にも対応することが可能だ。

 思い返せば「石焼き芋」や「豆腐売り」など移動販売車と呼べる形態は以前から存在していた。ただ、最近になって急拡大している移動販売車には大きな違いがある。それは、マンションや地域の利便性を高める目的で、デベロッパーやマンション管理会社といった「私有地」を管理する側が出店を依頼する形が普及したことだ。

 オフィスビルの隙間に出店させ、効率的にビルの売り上げを伸ばす。あるいは、マンションの敷地内への出店で住人の利便性を高める──。移動販売車が不動産価値向上に寄与する一つのコンテンツとして見なされているのだ。

ニュータウンのライフラインに

 出店者側も流しの営業では1カ所にとどまって販売することが難しいが、私有地の提供を受ければ販売場所には困らない。また、毎週決まった曜日に出店するなど定期的な接点を設けることで、実店舗さながらにファンを獲得することもできるという。

 こうしたウィン-ウィンの関係は地方にも広がりを見せる。メロウは10月4日から大阪府堺市の泉北ニュータウンで移動販売のテスト営業を開始。人口減少と高齢化により商業機能が低下する住宅団地やニュータウンの縁辺部で、生活利便施設を補完するライフラインの役割も担い始めている。

 人の動きと需要に合わせて自由自在に商圏を変える移動販売車。モビリティーの機動力で顧客を「迎えに行く」スタイルもニューノーマルとなりそうだ。

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