運転免許証が不要な、高齢者向け電動車椅子の店頭販売に乗り出す車販売店が増えている。免許を自主返納してマイカーを手放す高齢者が増加し、本業の先細り懸念が強まっていることが背景だ。5月には道路交通法が改正され、一定の交通違反歴がある高齢ドライバーへの運転技能検査が義務付けられた。免許返納を促す動きが高まる中、各販売店は顧客との接点を増やす施策としても、電動車椅子などの小型モビリティー(移動手段)に注目しているようだ。

 折りたためるモビリティー――。埼玉県川越市にある「ホンダカーズ川越 川越中央店」の玄関には、そんな販促用の垂れ幕とともに高齢者向け電動車椅子が3台置かれていた。モビリティー開発のスタートアップ、WHILL(ウィル、東京・品川)が製造する近距離移動用の電動車椅子だ。

 折り畳めることで自宅の玄関先に置けるほか、タクシーや新幹線などの交通機関に積み込んだりするのが容易になる。同店では9月から販売を始めた。

ウィルの折り畳める電動車椅子が置かれたホンダカーズ川越 川越中央店
ウィルの折り畳める電動車椅子が置かれたホンダカーズ川越 川越中央店

免許返納は5年前の1.5倍

 「車販売店に電動車椅子?」 と不思議に思う方もいるかもしれないが、ウィルは既に全国約80社、計800店以上のディーラーと代理店販売契約を締結している。ディーラーとの提携店舗は2021年2月の時点で100店強だったが、破竹の勢いで増えている。

 「高齢者には運転免許返納後も思いのままに外出してほしい。地域の高齢化問題に役立ちたかった」。同店を含め、埼玉県内で「ホンダカーズ川越」を6店舗展開するホンダプロモーション(埼玉県川越市)の山田美行社長は、ウィルの店頭販売を始めた理由について、こう話す。

 警察庁によると、21年に運転免許を自主返納した件数は全国で約51万7000件あり、5年前の16年(約34万5000件)の約1.5倍になった。ホンダプロモーションが店舗を構える埼玉県もほぼ同様の傾向で、埼玉県の運転免許証保有者約471万5000人のうち65歳以上は2割を超える。今後、自主返納する高齢者が増えるのは確実な情勢だ。

 埼玉県の統計によると、埼玉県は高齢者人口の割合が県北部、県中央部で多く、65歳以上の割合が35%超の自治体も10以上ある。免許を返納して車に乗れなくなると生活に不便を感じる高齢者は多い。「車から電動車椅子へのスムーズな乗り換えによって、その問題を解決できるのではないかと考えた」と山田社長は話す。

 特に大都市ほど交通網が発達していない地方は、「車=生活の足」として手放したくない高齢者が多いのが実情だ。例えば、1980年ごろに造成された同県狭山市にある住宅地では、大手スーパーマーケットが撤退。今は住居から3キロほど離れた店に行かないと、生活用品が買えない――。そんな声が販売店に入るようになった。「免許返納で自由に外出できない『高齢者難民』は増える」。そんな危機感から、山田社長はウィルに提携を打診した。

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