「私たちの目指すゴールはカーボンニュートラル(炭素中立)なのであって、その道筋は1つではない。脱炭素の出口を狭めないでほしい」
4月22日、日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は定例会見に臨み、ガソリン車廃止に傾く国の政策に異議を唱えた。会見時間をほぼ丸々使い切って脱炭素政策に警告を発するのは、昨年12月以来、3度目のことだ(関連記事:「100万人が雇用失う」自工会・豊田会長、再エネ遅れに危機感)。

菅義偉内閣は昨年10月、日本が2050年までに炭素中立を実現する目標を宣言。昨年12月にその工程表である「グリーン成長戦略」で、30年代半ばまでに乗用車の新車販売でガソリン車をゼロにすることを掲げた。
自工会は炭素中立に全力で協力すると表明済みだが、そのための方法が日本の自動車産業の競争力を削(そ)ぐものであってはならないというのが豊田会長の主張だ。約3万点あるガソリン車の部品のうち、1万点は内燃機関に関連するとされ、「ガソリン車を禁止すればその雇用が失われる。噴射技術など日本が培ってきた強みも失われてしまう」と訴えた。
「e-fuel」で内燃機関延命
そこで提言したのがバイオマス(生物資源)燃料や水素などから作る液体燃料「e-fuel」の普及だ。ガソリンから切り替えれば内燃機関からの二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に減らせるという。
全国に約7800万台ある保有車のほとんどがハイブリッド車(HV)を含めエンジン駆動であり、自動車の長寿命化も進んでいる。そうした車両からのCO2排出削減のためにも燃料の脱炭素化が重要だとした。政策が電動車普及一辺倒になってしまえばそのチャンスを見過ごすとの問題提起だ。
ただし、e-fuelは既存の燃料に比べて高コストで現状は大量供給も難しい。化石燃料の改質で水素を作るとCO2が出るため、再生可能エネルギーやCCS(CO2の回収・貯留)技術を利用する必要があり、量産のハードルは高い。
そんな中、驚きのニュースが舞い込んだ。内燃機関の技術を磨いて国内自動車大手の最後発からのし上がったホンダが、ガソリン車を手放す覚悟を決めたのだ。40年までに世界の新車販売を全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を発表した(関連記事:ホンダ、40年に新車を全てEV・FCVに「高い目標こそ奮い立つ」)。
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