異例の展開が続くトヨタ春闘ドタバタ劇

 トヨタの労使交渉は去年から異例の展開が続いている。

 19年、春季労使交渉の場で豊田社長が「今回ほど距離を感じたことはない」と発言し、延長戦として初めて「秋季」労使交渉を開いた同社。今年に入っても、組織改革をめぐるドタバタ劇は終わっていなかった。

 2月19日に始まったトヨタの2020年春闘。同日に愛知県豊田市のトヨタ本社で開かれた第1回労使協議会の幕開けは、またもや異例の展開となっていた。

 通常、労使協議では組合側の「労」と会社側の「使」が向かい合うように座る。だが、この日の労使交渉は「使」が豊田社長以下のトップ級と、執行役員以下の管理職級の二手に分かれ「労使使」の三角形の配置となった。

 豊田社長は同日、配置の変更について「マネジメントに伝えるべきことは面と向かって伝えるしかない」と発言。事前に配置変更について打診を受けた組合からも「大きな反対意見は出なかった」(労組幹部)。この日も、労組の前で幹部同士が議論する場面が見られたという。

 こうした変革の根っこにあるのも、ベアゼロの背景と同じく危機感だ。縦割りで年功序列だった人事制度を変えていくためには、労使が面と向かって対立するのではなく、三角形などの多角形の配置を取り、お互いに提案し合う関係を構築する必要がある。

 実際、今年の春闘では、賃上げなど組合側の要求に加え、会社側も人事制度の提案を投げかけた。

 去年の春闘から、トヨタ労使は「専門委員会」という立て付けで人事制度に関する協議を続けてきた。計9回の委員会で、労使は評価制度や人材育成など細かい項目を詰めてきた。その中には、「全職種の評価基準を『人間力』『実行力』とすること」「中途採用を将来的には採用の50%にすること」などが含まれる。

 今年に入って開かれた10回目の委員会でも、評価のフィードバック強化など細かい調整が続いた。

 そして今年の春が、人事制度改革の最終局面だった。2月26日に開かれた第2回協議会で、トヨタは賃金の改定を組合に提案していた。

 一律で昇給する仕組みを廃止し評価による反映額を拡大させる内容で、21年4月からの導入を検討するとした。賞与も同様にメリハリを付けるため、加点幅を広げ、今年7月から導入すると提案した。「頑張る人に報いる仕組み」とトヨタは説明するが、裏を返せば「働かないおじさん」は要らないということに他ならない。

 ベアこそゼロ回答となり、評価反映の仕組みは先送りとなったものの、評価制度における変革への歩みは止まっていない。桑田副本部長は「『頑張ったら報われる』という傾向を強くしていく。まだまだ足りない」と話し、組合とさらなる協議をすることに含みを残した。

 ベアゼロに隠れて見えにくくなった人事制度見直し。これは対立する取り組みというより、むしろ目まぐるしく変わる事業環境に対する危機感から生まれた共通の結果として読み解いたほうがよさそうだ。

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