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米カリフォルニア州ニューアークにあるルーシッド・モーターズの本社。2020年2月の取材時は研修施設とショールームの工事中だった

 米フェイスブックが本拠地を置くカリフォルニア州メンローパークから、サンフランシスコ湾を渡ってすぐ。米テスラの主力製造拠点、フリーモント工場からも近いニューアークに、ルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)の本社がある。

 米国では今、EV(電気自動車)スタートアップ企業が「ポスト・テスラ」の座を狙う動きが活発になっている。ルーシッドはその有力候補として名前が挙がる1社だ。2007年にEV向けバッテリー技術開発の会社として設立された同社は16年に「EV完成車を生産する」と宣言し、後に高級EVセダン「ルーシッド・エア」となる車両のコンセプトを発表して話題になった。

20年4月に発売予定の「ルシッド・エア」。価格は10万ドルになる見通しの高級車だ

 それから4年。今年4月のニューヨーク国際自動車ショーで、この秋からアリゾナ州カサグランデの工場で量産予定のルーシッド・エアを発表する。「所詮、あまたある新興EVメーカーの一つでは?」と侮るなかれ。同社には、テスラを生んだ米国で注目を集めるだけの理由がある。

 まず4月に発売する高級EVセダン「ルーシッド・エア」の特徴から見ていこう。

2.5秒で時速97kmに

ルシッド・モーターズCEOのピーター・ローリンソン氏

 「ルーシッド・エアはテスラとは競合しない。(同社の高級EVセダンの)『モデルS』よりさらにラグジュアリーなカテゴリーを目指す。競合するとするならポルシェのEV、ガソリン車ならBMWやメルセデス・ベンツなどだ」

 ルーシッドのCEO(最高経営責任者)を務めるピーター・ローリンソン氏はこう説明する。価格は10万ドル程度になる見通しだ。ローリンソン氏は英国出身。英ジャガーや英ロータスのチーフエンジニアなどを経て09年、イーロン・マスクCEOからの熱烈アプローチを受けて「モデルS」のチーフエンジニアとして引き抜かれた人物だ。ルーシッドには13年にCTO(最高技術責任者)として転籍した。なおルーシッドの前身であるアティーバ(Atieva)は、元テスラ幹部のバーナード・ツェ氏と元オラクル幹部のサム・ウェン氏が創業した。

 発売前のため詳細な仕様は明らかにしていないが、最大の特徴はその居住スペースの広さにあるという。ホイールベース(前輪軸と後輪軸の距離)は独BMWの「7シリーズ」とほぼ同じながら、室内空間は後部座席の背もたれを55度近くまで倒せるほど広い。

後部座席は「重役気分」を味わえる

 出力や航続距離も最高クラスを目指す。航続距離は最大400マイル(644km)以上、2つのモーターで計1000馬力(740kW)の出力を得られるという。ゼロから時速60マイル(97km)に到達するまでの時間は2.5秒で、独ポルシェのEV「タイカン」をしのぐ加速力。アティーバ時代にEVレース「フォーミュラE」の車両にバッテリーを供給していた実績がある。「フォーミュラEのデータは全て蓄積して分析し、ルーシッド・エアのバッテリー開発に役立てている」(ルーシッド広報)という。

EVレースの「フォーミュラE」で英マクラーレン・オートモーティブなどにバッテリーを提供した(工場に展示してあったものを撮影)