「スマホに乗る」という体験
「スマホに乗ったらどういう体験ができるか」(江里口氏)が今回の電動車両開発のポイントだった。いつでもどこでも、様々なコンテンツを楽しむことができるスマホ。自動運転車両では運転に集中する必要がなくなるため、時間の使い方がガラッと変わる。コンテンツの提供が移動の新たな価値になる。
スマホではソニーは敗者といっていい。スマホ事業は決算のたびに減損を繰り返した。時に年間販売1億台を超える米アップルの「iPhone」に対し、ソニーは20年3月期、スマホは日本と欧州を中心に350万台の販売しか見込んでいない。もちろん基本ソフト(OS)は米グーグルのアンドロイド。ブランド力の差は大きい。
そんな中でソニーがこだわったのが「動くもの」だった。吉田憲一郎社長は就任来、「ヒトに近づく」ことをソニーの存在価値として掲げてきた。ヒトのそばで「動く」電動車両が与える体験はソニーがもたらす新しい価値といえる。

移動中の「体験」の楽しさはソニー自身の「成功体験」にもつながる。世界的なヒットとなった「ウォークマン」は歩きながら音楽を聞くという新しい価値を提供した。移動時の体験を新たなものにできるのかどうか。モバイルでは明らかに劣勢のソニー。自動車とモビリティーで強みを発揮できれば、ブランド価値は一気に高まる。
ソニーがモビリティーに手を出した背景には、EV(電気自動車)へのシフトなど電動化の進展がある。
「エンジン搭載の車両では電機メーカーは手を出せなかった」。江里口氏はこう話す。今やエンジンも多数のECU(電子制御ユニット)が制御し、電子部品の側面を持つ。それでも、「電池とモーターで動くのとはわけが違う」(同氏)。電動車なら、ソフトウエアの制御なども手掛けやすい。
「SC-1」のベースはヤマハ発のゴルフカート。コースを指示する線を路面にはわせており、自決められた軌道上を走る。自動車メーカーが苦闘する運転者とシステムのはざまを行き来するような自動運転とは明らかに差がある。
今回の実験は、東南植物楽園が日没とともに営業をやめてしまっていたスペースを活用したもので、人と車両が動線上に混在することはない。しかし将来は人が行き来するスペースで園内ガイド車両のような役割を担うことも検討していく。
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