石畳の広場に半円のアーチ窓。欧州の駅舎をほうふつさせる建物で、結婚式が行われた。式の終わり、新郎新婦が自慢の愛車に乗って後にしたその場所は、地元の自動車販売店だ。

ネッツトヨタ富山本店で開かれた結婚式

 ネッツトヨタ富山(富山市)は2009年に本店をリニューアルした。店舗中央に広場を設けたユニークなデザイン。それに合わせ、店舗内のスペースや敷地を地域住民に無償で貸し出す取り組みを始めた。町内会のお祭りや小学生のフットサル大会など用途は様々。ペットの里親探しをする団体が保護犬や保護猫の譲渡会を開催したこともある。緊急事態宣言下では、地元飲食店がテークアウト商品を販売できるスペースとして駐車場を提供した。

店舗内のスペースでは、ペットの里親探しをする団体による保護犬・保護猫の譲渡会も開かれた

 こうしたイベントは新車の販促目的ではなく、地域住民主体の催しだ。口コミで評判が広がり、まるで公民館のような役割を担うようになった。

 自動車販売店が地域貢献に注力するのは、生き残り競争が厳しさを増しているからだ。ネッツトヨタ富山の新車販売台数は1990年のピーク時から約2割減少したという。中古車事業の拡大などで業績は維持しているが、今後も自動車需要の減少は避けられないうえ、富山県にはトヨタ系販売会社が3社ある。「地域に必要とされる存在になることが販売店存続の生命線」(笹山泰治社長)との思いがある。

小規模販売店に淘汰の波

 100年に1度の変革期といわれる自動車産業。それはディーラーも同じだ。2000年に約600万台だった国内メーカーの新車販売台数は、20年は約460万台と2割以上落ち込んだ。サブスクリプション(定額課金)やカーシェアリングなど「所有しない」利用形態も広がっている。

 日本自動車販売協会連合会の加盟企業による販売・サービス拠点数は20年に1万5619カ所。4年で400減少した。リーマン・ショック以降、ディーラーの倒産件数は年間100件前後で高止まりしている。多いのが「サブディーラー」と呼ばれる小規模販売店。20年の倒産事例の約65%は負債額5000万円未満の小規模な事業者だった。「地方のサブディーラーを中心に人口減や高齢化などの影響を受けている」(帝国データバンク情報部の担当者)。三菱自動車系のカープラザ富山中央(富山県高岡市)が事業を停止するなど影響は大手にも広がり始めている。

 市場環境の変化に加え、地場資本が9割以上を占めるトヨタ系ディーラーには大きな転換点があった。20年5月からの全車種併売化だ。それまでトヨタ系販社では「トヨペット」「ネッツ」「カローラ」などのチャネルごとに扱える車種が決まっていた。車種の垣根がなくなり、同じトヨタ系販売店とも顧客の奪い合いが本格化している。

 販売店を選ぶ理由をこれまで以上に問われるようになったが、地域密着を強化していたディーラーにとっては「全車種併売は大歓迎」(ネッツトヨタ富山の笹山社長)だ。同社は09年、3代目の「プリウス」がトヨタ系ディーラーの全チャネルで販売できるようになったタイミングから他社との差別化を強く意識してきた。スペースの無料貸し出しに加え、19年からは地域貢献活動も本格化。各店舗が割り当てられた年間予算をもとに、水族館の清掃や幼稚園の園庭改造などにとりかかり、地域に深く入り込んできた。今では、こうした取り組みを通じて新しい顧客と出会うこともあるほか、過去に店を訪れた学生が入社するなど、地域密着の方向性に手応えを感じているという。

続きを読む 2/2 商店街に活気が生まれた

この記事はシリーズ「クルマ大転換 CASE時代の新秩序」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。