「絶対にOEM(自動車メーカー)のラインを止めるな」──。新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に加速した2020年末も、自動車部品大手の調達担当は息つく暇がなかった。

 理由はクルマをつくる上で欠かせない半導体の不足だ。すでに、独フォルクスワーゲンが半導体の供給不足を理由に生産調整を発表するなど問題は顕在化していた。ある部品大手の幹部は「市場を走り回ってかき集めているが状況は厳しい」と悲壮な表情を浮かべる。

 クルマのサプライチェーンでキモとなる半導体が、なぜ足りない事態となったのか。自動車産業にとって想定外だったのはまず、新車需要の急速な回復だ。

半導体不足による自動車生産への影響は世界に広がっている。写真は独フォルクスワーゲン傘下のセアトの工場(写真:David Ramos / Getty Images)
半導体不足による自動車生産への影響は世界に広がっている。写真は独フォルクスワーゲン傘下のセアトの工場(写真:David Ramos / Getty Images)

 工場の稼働停止が相次ぎ、販売店の多くが営業休止を余儀なくされた20年春、新車の販売は落ち込んだ。中国では2月に前年同月比8割減、米国でも4月に同5割減となった。

 ところが、4月から中国で前年比プラスに転じ、その後2桁成長が続いた。助成金や規制緩和など国が主導する形で需要創出が進んだためだ。米国でも夏から活気が戻り、9月に前年同月を上回った。コロナ対策で市場にあふれたマネーの受け皿となった。

 だが、増産に欠かせない半導体への備えは万全ではなかった。

 まず足りなくなったのが、クルマの「走る、曲がる、止まる」を制御するなど指令を出す「マイコン」だ。 半導体会社は一般的に、微細加工が必要な半導体を台湾積体電路製造(TSMC)などファウンドリー(受託製造会社)に発注する。自動車の生産が止まった20年春から夏、ファウンドリーには巣ごもりで需要が高まったパソコンなど消費者向け機器で使う半導体の注文が新規で舞い込んだ。

 自動車の機能の複雑化に伴い、独コンチネンタルなど部品大手は汎用チップの活用を増やしている。つまり、これまでクルマ向けだったラインを民生品向けにシフトするのに支障はない。これと前後して「ファブレス(工場なし)企業などがファウンドリーのキャパシティーや材料の買い占めに走った」(取引関係者)。自動車会社が調達を元に戻そうにも、そこにはもう「余裕」がなかったというわけだ。

 もう1つ、不足が顕著になっているのが、電力を効率的に使うのに必須のパワー半導体だ。この背景には、SDGs(持続可能な開発目標)をベースとした新たな市場づくりがある。コロナ禍を受け、欧州各国などの産業支援は、気候変動に関連する分野への傾倒が強まった。この「官製需要」が今、新たな産業の創生を強力に後押ししている。

 例えば、欧州連合は官民で100兆円規模の資金を投じて洋上風力の発電能力を50年に3億キロワットと現在(1200万キロワット)の25倍に高める計画を持つ。先端の発電機においてカギとなるのがパワーデバイス。重機械産業もコロナを機に、半導体の調達を加速した。

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