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 総務省の2016年版「社会生活基本調査」によれば、65歳以上の男女のうち、76%の人が「直近1年で(趣味や娯楽など)何らかの行動をした」と回答した(行動者率)。だが、これをもって4分の3のシニアが自分の趣味を持っていると受け取るのは早計だ。1年に数回友人とカラオケに行っただけの人なども含まれている可能性があるからだ。むしろ今回の取材で出会ったシニアには、「一生打ち込めるかけがえのない趣味」を持つ人より、なかなか見つからない人の方がずっと多かった。

 定年後に通い始めたヨガ教室をすぐやめたと話すCさんもその1人。「自分の場合はカルチャースクールカーストなどではなくて、やれと言われたポーズができないものばかりで、逆にストレスになりやめた」と苦笑する。

 『定年後』(中央公論新社)などの著書があり、多くの定年退職者に取材を重ねてきた神戸松蔭女子学院大学の楠木新教授は「特に、与えられた仕事だけをやってきた会社員の場合、いざ定年を迎えた後に何をすべきか分からなくなるケースもある」と指摘する。

 加えて、何かやりたくても、高齢になればなるほど楽しめる趣味が限定されていく。そんな現実もある。

100歳のドライバーによる暴走事故も発生

 若い頃のようにドライブやグルメを趣味にしたくても、高齢になれば、はやりの店に行く途中にアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こすといった可能性も高くなっている。実際に、高齢者の暴走事故は全国的に多発しており、東京・池袋で起きた、旧通産省工業技術院の元院長による過失運転で母子2人が死亡した事故(2019年4月)に続き、新潟市では100歳の男性が運転する車が歩道に乗り上げ、歩いていた30代男性をはねる事故(同年9月)が起きている。

 もちろん、大好きな趣味に没頭し輝き続けるシニアたちが世の中に存在するのも事実だ。

 京都府舞鶴市のビートスイミングクラブに週3~4回のペースで通う87歳の亀井美尚さん。200メートル個人メドレーで、18年に3分48秒20を打ち出して世界記録(85~89歳)保持者となった。日本記録の更新も数知れない。

亀井美尚さん(87)は、水泳200メートル個人メドレーの世界記録を作った

 競泳の世界に飛び込んだのは、全国を転々とした農薬メーカーの営業職を定年退職した60歳を過ぎてから。旧制中学時代などでは陸上部に所属し、短距離や幅跳びの選手として、京都府内トップクラスで活躍。泳ぐことはあっても競泳選手というわけではなかった。

 プールに通い始めたのは40歳を過ぎた頃。それでも当時は、腰痛のリハビリのために区営プールに週1~2回通い、ウオーキングなどをする程度だった。定年退職を機に地元に戻ると知人からの誘いを受け、その取り組みを一気に加速させる。

 スイミングクラブで亀井さんを指導する奥東俊彦さんも「マスターズの大会は競泳経験者が出場することが多い。60歳から本格的に始めるという人はほかに存じ上げない」と話す超人ぶりだ。奥東さんは「普通は亀井さんの年齢では200メートル泳げない」と話すが、当の亀井さんは普段の練習で1日2000メートルほどを泳ぎ切る。