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業績不振に苦しみ、人材流出も少なからずあったNEC。新規事業の育成へ、踏み切ったのがNECに在籍しながら起業を認めること。挑戦しやすい仕組みを整え、優秀な人材が集まる場を目指す。

 「当初の狙い通りに話が進んでいる」。NECのコーポレート事業開発本部の北瀬聖光本部長が、熱視線を送るスタートアップがある。dotData(ドットデータ)。米シリコンバレーに本社を置く、AI(人工知能)スタートアップだ。

ドットデータはNECからカーブアウトして設立された。右端がNECの北瀬聖光氏、右から2番目がドットデータの藤巻遼平氏

 2018年4月に創業のドットデータは、AIを活用したデータ分析を手掛ける。ビッグデータから潜在顧客を割り出したり、生産計画を立案したりする「予測モデル」を自動で設計する技術が強みだ。評価は高く、創業してまだ2年弱ながら金融から通信、流通、航空、自動車、サービスなど数多くの業種向けにサービスを提供。アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトなど米国のクラウドの巨人たちとも連携している。

 2019年10年末には、事業開発段階の「シリーズA」でベンチャーキャピタル大手のジャフコと米ゴールドマン・サックスが2300万ドル(約25億円)が出資すると発表。累計調達額は4300万ドル(約45億円)に達する。市場関係者から「(上場目前の)レイター出資が多いゴールドマンが、アーリー出資に踏み切るとは」との話題を集めたほどだ。

 急成長するドットデータにNECの北瀬本部長が熱視線を送るのは、その技術力に注目していることだけが理由ではない。実は、ドットデータはNECから事業分離(カーブアウト)して創業されたスタートアップなのだ。藤巻遼平CEO(最高経営責任者)は最年少でNECの主席研究員に上り詰めたエースで、ドットデータの基本技術も同社の研究所で生まれた。

 最先端技術を手掛けるエースの起業を認める――。ドットデータは、NECが異例の判断を下した第1号案件だ。なぜNECは、技術や人材を抱え込みがちな大企業ではありえなかった判断に踏み切ったのか。

優秀な人材が去っていく

 「電電ファミリー」の一社として日本の高度経済成長を引っ張ってきたNEC。1980年以降は事業を拡大し、パソコンのPC-9800シリーズは「国民機」と呼ばれるほど日本市場を席巻、90年にはDRAMを武器に半導体市場で世界シェア首位に立った。有名大学出身のエンジニアが技術開発を追求した結果であるのは間違いないだろう。

 だが、2000年代以降はデジタル化とグローバル化の波にのまれた。パソコンや半導体などかつての主力事業などから相次ぎ撤退し、大規模な人員削減も余儀なくされた。変化が激しいIT(情報技術)業界では事業化に立ち遅れ、「技術力は高いがビジネスでは負ける」と揶揄(やゆ)されることもしばしばだ。米国の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)や中国の「BAT」(百度=バイドゥ、アリババ集団、テンセント)といった巨人たちの後じんを拝している。

 事業環境の厳しさと呼応するように、NECからは優秀な人材が流出している。AI開発のHEROZ(ヒーローズ)のように、NEC出身者が起業し株式上場するケースすら出てきている。NECの北瀬本部長も「若くて優秀な人材が出ていっていることは認識している」と語る。