2019年10月、副業・兼業を認める人事制度を導入したみずほフィナンシャルグループ。その背景には、銀行ビジネスの行き詰まりや、業績不振に起因する「人材離れ」に対する危機感があった。これからは多様な働き方を認め、「活躍の場」を提供することで、優秀な人に来てもらうことを目指す。

(写真=ロイター/アフロ)
(写真=ロイター/アフロ)

 「外で働くことを認めてしまっては、最後は他の会社へ行ってしまうのではないか」「今まで大事に育てた社員を野放しにするも同然ではないか」……

 2019年10月、みずほフィナンシャルグループ(FG)は、社員の兼業・副業をメガバンクとして初めて解禁することを決めた。そこで交わされたのはこんな激論だった。問われたのは、単なる働き方の問題ではない。働く個人と会社との関係だった。

 産業界で副業解禁の動きが広がる中、銀行業界はそこから遠い業界にあるとみられていた。取引先の機密情報を数多く取り扱うため、セキュリティや情報管理面でのハードルが高い。複数の企業と雇用契約を結んだ場合、従業員の労務管理がしづらくなるデメリットもある。さらには前例を重視する保守的なカルチャーも副業に消極的な背景でもあった。実際、メガバンクでは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も三井住友フィナンシャルグループも副業は認めていない。ではなぜみずほは決断したのか。

 ひとつは同社固有の事情だ。日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行が統合したみずほは、社内融和に時間がかかり、MUFGや三井住友FGに比べ経営改革が遅れたと指摘されている。システム統合に関しても「三行対等の精神」を重んじるあまりに後手に回った。昨年3月には傘下銀行の勘定系システムを一本化するために投じた新システム投資費用や店舗統廃合にかかる固定資産関連での減損が響き、6800億円もの損失を出している。3メガの3番手が定位置となったみずほは、17年には、10年かけて1万9000人の人員削減に踏み出す方針を構造改革の一環で打ち出しており、会社が一生、社員の面倒を見るという前提が崩れた。

 だが、もっと大きいのは、会社に対する個人の意識が大きく変わったことだ。

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